2026年8月18日、神戸大学大学院の研究グループが国際学術誌に2026年8月3日に論文が掲載されたと発表した。正解のない道徳的な意思決定において生成AIの反論を提示したところ、3割以上の参加者が自身の判断を覆したことが判明している。
生成AIの反論で3割以上の人が道徳的判断を変更 神戸大が実験結果を発表
神戸大学大学院人間発達環境学研究科・ウェルビーイング先端研究センターの増本康平教授や田村亘氏らの研究グループは、正解が存在しない道徳的判断において生成AI(ChatGPT)の反論が人間の意思決定に及ぼす影響を検証した。本研究成果は2026年8月3日に国際学術誌「Computers in Human Behavior」に掲載されている。
実験は若年成人56名と高齢者74名の計130名を対象に執行された。課題には「転換機問題」と「歩道橋問題」という2つのトロッコ問題(※)が用いられている。結果として、転換機問題で32.31%、歩道橋問題で36.92%の参加者が生成AIの反論を受け入れ、最初の判断を完全に反転させた。他者からの助言を取り入れる割合は先行研究で20〜30%程度とされるため、反対意見によって30%超が考えを変えた点は生成AIの強い影響力を示している。
反論を受け入れる要因として、最初の判断への自信のなさや意思決定の困難さが関連していた。さらに歩道橋問題では、認知機能の低さが判断反転のしやすさと関連しており、高齢者は若年成人よりもAIの反論に影響されやすい傾向が明らかになっている。
※トロッコ問題(※):倫理学における思考実験の一つ。暴走するトロッコの進路を操作し、5人を助けるために1人を犠牲にする判断が適切かどうかなど、正解のない道徳的ジレンマを問う課題。
思考補助の利便性と誘導のリスク 問われるAIリテラシーと今後の展望
今回の研究成果は、生成AIの活用がもたらすメリットとデメリットの両面を浮き彫りにしている。
メリットとして、生成AIは人間の認知的な負担を軽減し、複雑で困難な意思決定をサポートする有効なツールとなり得る点があげられる。特に認知機能が低下した高齢者にとっては、加齢に伴う判断力の低下を補完する画期的なアシスタントとして機能する可能性が期待されている。
一方で、客観的な正解が存在しない道徳的な局面において、生成AIの情報が過度な説得力を持ち、人間の判断を意図しない方向へ誘導してしまうリスクが懸念される。認知機能の低い層ほど不当な説得に対して脆弱になる可能性が示されたことは、ヘイトスピーチや誤情報、政治的プロパガンダの拡散といった悪用問題とも背中合わせであると言える。
今後は、より日常生活に近い場面における生成AIの説得効果についての検証が進む見通しだ。得られた知見はAIリテラシー教育の推進や、人間が安心して人工知能を利用できる仕組みづくりに活用されると考えられる。人間が主体性を保ちつつAIと上手につきあう環境整備が強く求められている。
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