2026年9月8日、早稲田大学の研究グループが、AI予測を用いて5Gマルチキャスト放送の安定化を実現する新技術を開発したと発表した。米国での国際学会「IEEE VTC-Fall 2026」にて発表されたもので、光ファイバーの導入が困難な集合住宅における情報格差の解消に貢献することが期待される。
ローカル5GとAI予測で古い集合住宅へ高画質テレビを安定配信
早稲田大学の甲藤二郎教授らの研究グループは、NECネッツエスアイ株式会社との共同研究を通じて、未来の電波状況をAIでリアルタイムに予測する軽量なモデルを開発した。
従来の5G通信による一斉送信では映像が止まりやすいという課題があったが、本研究では0.1秒先の電波状況を推定することで映像の途切れを未然に防ぐ仕組みを構築している。実際の5Gネットワークを用いた検証では、通信の目的を「画質の最大化」から「映像の確実な伝送」へと転換した。
開発したAIモデルは、実際の商用5Gネットワークから収集した約2600万件のデータを学習に利用しており、瞬時の電波変動にも対応可能である。さらに、スマートフォンの測定値だけを入力とし、モデルサイズを小さくすることで一般のスマートフォン上でのリアルタイム動作を実現した。
検証の結果、提案モデルは映像セグメントの約87%でエラーなしに届けられる設定を正しく選択することに成功している。画質優先の従来手法では約32%にとどまっており、楽観的な予測を抑制することで映像停止のリスクを削減できることが確認された。処理速度の面でも、視聴者が認識できる遅延を一切生じさせないことが実証されている。
※5G MBS:一つの送信で多数の家庭に同じ映像を同時配信する5Gの機能であり、電波を効率よく使えるため次世代ケーブルテレビの無線版として期待されている。
デジタルデバイド解消に貢献する一方、幅広い普及にはコストや環境面での課題も残る
本研究の成果がもたらす最大のメリットは、新たな配線工事を行うことなくローカル5G経由での高画質テレビの安定配信を現実的なものにする点にある。これにより、光回線が届かない地域でもケーブルテレビサービスの高度化やデジタルデバイドの解消に大きく貢献できると考えられる。
また、モデルが小型で安価に実装できることから、受信機のコスト削減にも寄与して誰もが手の届く価格での普及が実現する見込みである。
一方で、これまで大企業の利用が中心だったローカル5Gの周波数帯を一般市民向けに展開していくためには、具体的な運用体制の構築が求められる可能性がある。 さらに、今後はテレビ放送にとどまらず、衛星通信や自動運転、産業システムなどデータを再送できない放送型の無線通信全般への応用が視野に入れられている。
AIが通信の意思決定を担う次世代の「AIネイティブ」無線通信の実践的な事例として、放送と通信を一つの無線基盤に統合するという目標に向けた重要な一歩になると期待される。
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