2026年5月15日、回転寿司チェーンのくら寿司は、AI技術を活用して大型化した養殖サバ「大型生さば」を大阪・京都の一部75店舗で販売すると発表した。AI給餌によるスマート養殖で700g超まで育成した生サバを提供するのは同社初となる。漁獲量減少と価格高騰が続く中、外食業界では“AI水産”による供給改革が本格化し始めている。
AI養殖で大型化 くら寿司初の「生サバ」提供へ
くら寿司の子会社「KURAおさかなファーム」は、愛媛県宇和島市の生産者と連携し、AIを活用したスマート養殖(※)による大型サバの生産を進めてきた。2024年7月から人工種苗を用いた完全養殖を開始し、AI搭載の自動給餌機によって餌の量やタイミングを最適化したことで、通常200〜300g程度で出荷される養殖サバを、約1年で500g超まで成育。最終的には700gを超える大型サイズにまで育てたという。
今回販売される「大型生さば」は脂乗りの良さが特徴で、回転寿司チェーンとしては珍しい“生サバ”として提供される。くら寿司にとって生サバの販売は初の試みであり、AI養殖による高付加価値商品の実用化という意味でも注目度は高い。
背景には、国内外で深刻化するサバ供給不安がある。
農林水産省によると、国産サバの漁獲量は2015年の約53万トンから2024年には約25万トンへ半減した。一方、日本市場で大きな割合を占めるノルウェー産サバも、漁獲規制や物流費高騰の影響で価格が急騰している。かつて1kgあたり200円前後だった原料価格は、2026年には3倍を超える700円超に達しており、回転寿司業界では安定調達が重要課題になっている。
※スマート養殖:AIやICT技術を活用し、給餌や生簀管理を自動化・最適化する養殖手法。労働負担軽減や成育効率向上、餌ロス削減などが期待されている。
“AI水産”は漁業危機を救うか 地方創生への波及も
今回の取り組みは、単なる新メニュー開発ではなく、水産業全体の構造変化を示す動きとも言える。日本の漁業は高齢化と担い手不足が進み、天然魚への依存だけでは供給維持が難しくなりつつある。特にサバのような大衆魚は価格変動が消費に直結しやすく、外食チェーン各社にとって安定供給体制の構築は経営課題となっている。
KURAおさかなファームでは、生産者へ稚魚や餌を提供し、育成後は全量買い取る「委託養殖」モデルを採用している。これにより、生産者側は販売価格変動リスクを抑えやすくなり、安定収入につながる可能性がある。
さらに、スマートフォンから遠隔で給餌や生簀確認が可能になることで、重労働だった養殖現場の負担軽減も期待される。
一方で、AI養殖には設備投資コストや通信インフラ整備などの課題や、養殖魚への消費者心理や、生魚提供に伴う品質管理の厳格化も求められる。また、完全養殖魚の大量普及が進めば、天然漁業との競争バランスが新たな論点にもなるだろう。
AIと水産業の融合は今後さらに加速するとみられる。くら寿司はすでにマダイやハマチでもスマート養殖を進めており、“AIが魚を育てる時代”は実験段階から実装フェーズへ移行し始めている。
外食産業が水産供給網そのものを内製化する流れは、地方経済や日本の食インフラにも大きな影響を与えることになりそうだ。
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