全4回の連載も、いよいよ最終回となる。
第1回ではAntigravityというツールの輪郭を、第2回ではAIエージェント1体に小さなWebアプリを作らせる体験を、第3回ではAIエージェント6体を並列で動かしポートフォリオサイトを構築する過程を見てきた。
「コードを書けなくてもアプリは作れる」のか──連載開始時の問いに対する答えは、結論から言えば条件つきでイエスだった。シンプルなWebアプリや、ある程度ボリュームのあるサイトであれば、自然言語の指示だけで形にできる。一方で、Antigravityにも明確な得手・不得手があり、すべてを任せてしまえる段階にはまだない。
最終回となる本稿では、3回の実体験を踏まえて、Antigravityで何ができて何ができないのか、他のAIコーディングツールと比べてどう位置づけられるのか、そしてコードを書けない読者がこのツールを実用に組み込むなら何を意識すべきかを整理する。連載の答え合わせの回として読んでいただきたい。
連載でやってきたこと
最終回の議論に入る前に、これまでの3回を簡単に振り返っておく。
第1回(導入編)では、Antigravityとは何かを整理した。「コードを書くIDE」ではなく、「複数のAIエージェントを束ねて開発を進めるためのプラットフォーム」として設計されていること。Editor ViewとManager Viewという2つの作業画面、Plan ModeとFast Modeという2つの思考モード、そしてアーティファクトと呼ばれる計画書やレポートを介してAIと壁打ちする仕組みを紹介した。

第2回(実践編①)では、Antigravity IDE上でAIエージェント1体にToDo管理アプリを作らせた。送信したプロンプトは2回、計画書へのコメント1件、所要時間は約15分。コードは一行も書かなかった。「シンプルなWebアプリを作って」というだけの指示から、ダークモード・グラスモーフィズム・マイクロアニメーションを備えたアプリが生成された。


第3回(実践編②)では、Antigravity 2.0に舞台を移し、6体のエージェントを並列で動かして架空デザイナーのポートフォリオサイトを構築した。送信したプロンプトは6回、修正コメントは0件、所要時間は約20分。コードは一行も書かなかった。土台担当の1体が作ったデザインシステムを、残り5体が並列で参照しながら各ページを担当する設計で、結果として整合性の取れたサイトが出来上がった。


ここから、Antigravityの強みと限界を整理していこう。
できたこと──Antigravityの強み
3回の実体験を踏まえると、Antigravityの強みは大きく5つに分けられる。
第一に、自然言語からの開発が本当に成立する。「ToDoアプリを作って」「ポートフォリオサイトを作って」程度の素朴な日本語の指示から、UIデザイン・データ保存・アニメーションまで含めた完成品が出てくる。プロンプトを練り上げる職人芸は必要なかった。
第二に、計画書を介した壁打ちが機能する。第2回のPlan Modeでは、AIがImplementation Plan(実装計画書)を提示し、Google Docsライクなコメントで修正指示を入れられた。「英語で出てきた計画書を日本語に書き直して」というコメントを入れると、技術用語だけ英語のまま日本語に置き換えてくる──このきめ細かさは、コードが書けない人にとって「AIが暴走しているのではないか」という不安を和らげる重要な要素である。
第三に、複数エージェントの並列実行が想像以上にスムーズに動く。Antigravity 2.0の「プロジェクト+会話」という構造は、6体のエージェントを同時に動かしても破綻しなかった。それぞれが独立に作業したにもかかわらず、デザインの整合性も保たれた。「土台を1体に作らせてから、残りを並列で走らせる」というシンプルな段取りで成立してしまった点が、特に印象的だった。
第四に、AIがペルソナや指示の文脈を深く咀嚼してくれる。第3回で「佐藤美咲」というペルソナを共有したところ、ヒーローキャッチに「Refined Minimalism with a Warm Touch」という英文を据え、Blogの記事タイトルには「活版印刷ワークショップでの気付き」というペルソナの趣味を織り込んできた。指示を字面で受け取るのではなく、世界観として読み取って提案に反映してくるところに、Antigravityの賢さがある。
第五に、ブラウザ自動検証が組み込まれている。第2回でも触れたように、エージェントはコード生成後に自らChromeを起動し、アプリを操作して動作を確認する。これは他のAIコーディングツールにはあまりない特徴で、「生成しっぱなしで動かない」というAIあるあるを構造的に防ぐ仕組みになっている。
できなかったこと・苦手だったこと
一方、Antigravityにも明確な弱みがある。
まず、機能仕様の不安定さがある。第2回と第3回の間に、Antigravity 2.0が発表され、IDEからManager Viewが削除された。半年前にリリースされて以降、無料枠は1日250リクエストから20リクエストへと92%カットされた。また、AIクレジット制度の導入と廃止が行われ、プラン構成も変更されている。プレビュー段階のツールである以上、仕様が短期間で変わる前提で付き合う必要がある。
次に、生成物の品質にはムラがある。第3回のサイトは高い整合性を保てていたが、これは「土台を先に1体に作らせる」という段取りが効いたからだった。段取りを誤ると、エージェント間で同じファイルを取り合ったり、デザインがちぐはぐになる可能性は十分にある。並列実行は便利だが、人間が「仕事の分け方」を設計する責任は残る。
第三に、複雑な業務ロジックや既存システムとの統合には不向きである。今回の連載で扱ったのは、新規のシンプルなWebアプリと静的サイトだ。既存の大規模コードベースに新機能を加える、複雑なAPI連携を実装する、独自のビジネスルールを反映するといった作業は試していない。一般論として、AIエージェントは既存システムの暗黙ルールやレガシーな依存関係を読み切れないことが多く、ここはAntigravityも例外ではないと考えるべきだ。
第四に、機密情報の扱いに注意がいる。Antigravityはクラウド上のGeminiモデルにコードを送る前提で動く。ローカル実行(Ollama等を使った完全オフライン実行)も技術的には可能だが、デフォルトはクラウド経由だ。社外秘のコードや個人情報を扱う場合は、エンタープライズプランや別ツールを検討する必要がある。
第五に、コードを書けない人にとっては「うまくいかなかった時の打開策」が限られる。エージェントがエラーで止まったとき、出力が期待と違ったとき、原因が分からないとき──コードが読めない読者は、自然言語でやり取りを続けるしかない。問題が解決しないまま堂々巡りに陥るリスクは、第2回の作業中にも一瞬感じた場面だった。
企業はどう使っているか──想定される使われ方の類型
Antigravity 2.0発表時、Googleは「すでに社内でAntigravityを活用して、Google検索のカスタムUIを生成している」と明かしている。また、企業向けにはGemini Enterprise Agent Platform経由でGoogle Cloudプロジェクトに直接接続できる構成が用意され、独自のエージェントテンプレートをAI Studioで配布する仕組みも始まっている。
ただし、リリースから半年あまりの段階で、公開された大規模な国内導入事例はまだ多くない。そこで本稿では、Antigravityの機能特性から「現実的に想定される使われ方」を5つの類型で整理してみる。
①フロントエンド開発の自動化:UIコンポーネントの実装、Figmaデザインのコード化、レスポンシブ対応の調整など、定型的だが手数のかかる作業の自動化。ブラウザ自動検証機能と相性が良く、Google公式も主要ユースケースとして挙げている。
②プロトタイピングとMVP開発:第2回・第3回で実演したような、アイデアを素早く形にする用途。スタートアップの企画段階や、社内向け業務ツールの初期検証に向く。「実物を見てから議論したい」場面で威力を発揮する。
③テスト自動化とQA:エージェントにアプリを操作させて、機能の動作確認やUI回帰テストを実行させる用途。Antigravityのブラウザ自動検証機能は、もともと「テスト自動化ツールとしてキラーアプリになる」と指摘する開発者もいるほど。手動テストの工数を大きく削減できる可能性がある。
④ドキュメント・レポート生成:コードベースの解析結果、API仕様書、変更履歴の要約など、コードと文書をまたぐ作業。アーティファクトとして整理された出力が得やすい。
⑤バックオフィス連携の小規模アプリ:Google Sheets、Docs、Drive、Calendarとのネイティブ連携を活かして、社内データを扱う簡易ツールを作る。たとえば「Sheetsからリードデータを読み込み、Calendarでフォローアップを通知するミニCRM」のような用途で、Google Workspaceを使っている組織には特に親和性が高い。
連載のテーマである「コードが書けない人が使う」観点では、②と⑤が現実的な入口になりやすい。
他ツールとの位置づけ
AIコーディングツールの選択肢は2026年6月時点で大きく広がっている。Cursor、Claude Code、GitHub Copilotといった主要ツールとAntigravityを比較すると、以下のように整理できる。
| 観点 | Google Antigravity | Cursor | Claude Code | GitHub Copilot |
| 形態 | 専用デスクトップアプリ+IDE | VS Codeフォークの専用エディタ | ターミナル常駐のCLI | VS Code/JetBrains等の拡張 |
| 主な思想 | エージェント中心、並列実行 | エディタ統合、IDE体験を強化 | 自律的なターミナル実行 | エディタ補完の延長 |
| 並列エージェント | ◎(複数会話を同時実行) | ○(Composer 2.5でMulti-Agent Judging) | ○(Agent Teams) | △ |
| ブラウザ自動検証 | ◎(標準搭載のサブエージェント) | ○(Browserモード) | △(MCP経由で可能) | × |
| コードを書けない人の使い勝手 | ○(自然言語起点) | △(IDE知識を要する) | △(CLI操作が必要) | ×(補完前提) |
| 個人プラン料金(月額) | 無料/$20/$100/$200 | 無料/$20/$60/$200 | $20(Pro)/$100(Max) | 無料/$10(Pro) |
価格はいずれも2026年6月時点。Cursorは2026年5月にComposer 2.5を投入し、低コストで自社モデルを使う方向に舵を切った。Claude CodeはOpus 4.7ベースで1Mトークンのコンテキストとエージェントチーム機能を備える。GitHub Copilotは2026年6月に従量制課金に移行し、最も手軽な選択肢としての地位を保っている。
Antigravityは「エージェントに任せて、結果だけ確認したい」人向け、Cursorは「エディタで一緒に書きたい」人向け、Claude Codeは「ターミナルでガリガリ動かしたい」開発者向け、Copilotは「とりあえず補完だけ欲しい」人向け。
それぞれ思想が異なるので、「どれが一番いいか」ではなく「自分の作業の何を任せたいか」で選ぶのが正しい。
「コードが書けない人」がAntigravityをどう使うか
ここまでを踏まえ、コードは書けないが、AIでアプリ作成に興味がある人にとって、Antigravityをどう使うのが現実的かを整理しておきたい。
まず、何を作るかの選定。本連載で実演した範囲(ToDoアプリ・ポートフォリオサイト)程度の規模であれば、Antigravityは現時点でも十分に実用域にある。一方、ECサイトのような決済を伴うシステム、業務基幹システム、複雑なAPIと連携するアプリは、現段階ではAntigravity単独で完結させるのは厳しい。「最初に作ってみるもの」と「将来挑戦するもの」を分けて考えるべきだ。
次に、Antigravity IDEと2.0の使い分け。連載最終回時点での個人的な勧めはこうなる。
- Antigravity IDE:1つのアプリやサイトを集中して作るとき。エディタが手元にあるので、生成されたコードを覗き見ながら学ぶこともできる
- Antigravity 2.0:複数の作業を並行で進めたいとき、または「コードを直接見ない、エージェントに任せ切る」スタイルが好みの人
両方ともインストールして併用するのが現実的だ。2.0からはいつでも「Open IDE」ボタンでIDEを呼び出せるので、作業はまず2.0で進め、コードを確認したくなったらIDEを開く、という流れが扱いやすい。
他ツールとの併用も視野に入れたい。たとえば「ChatGPTやClaude.aiで企画を練り、Antigravityで実装する」といった分業が考えられる。Antigravityは実装フェーズに強く、企画や要件整理は対話型のチャットAIのほうが向く局面もある。
Antigravityはどこへ向かうか
連載中の半年間でAntigravityは大きく変わった。IDE中心 → エージェント中心への移行。Manager Viewの削除と2.0アプリの登場。Antigravity CLI、Antigravity SDK、Managed Agents in Gemini API、Gemini Enterprise Agent Platformという、エコシステム全体への拡張。
Googleは、「AIエージェントの管理・運用をプラットフォーム化する」方向に動いている。個人開発者向けのデスクトップアプリだけでなく、企業がAntigravity上に独自エージェントを構築・配布できる土台が整いつつある。
その先には、「コードを書く」という作業が、今のソフトウェア開発における中心的なタスクではなくなる未来が示唆されている。人間の役割は、コードの細部ではなく、「何を作るか」「どう分けるか」「結果が意図通りかどう確認するか」を判断するほうに移っていく可能性は高い。
連載を終えて
「コードを書けなくてもアプリは作れるのか」という連載開始時の問いに対する筆者の答えは、「いまの時点でも、限定的な範囲では作れる。そして、その範囲は急速に広がっている」というものだ。
連載第1回でAntigravityを取り上げた時点では、IDEとManager Viewという構成だった。それが連載中にAntigravity 2.0へと進化し、複数エージェントの並列実行が標準的な作業スタイルになった。半年でこれだけ変わったツールが、次の半年でどう変わるかは予測しがたい。
確かなのは、コードを書けない人にとっての「AIで作る」のハードルは、確実に下がり続けているということだ。完璧なツールはまだ存在しないが、自分の作りたいものに対して「いま使える道具」を選び、足りないところは別の手段で補うといった使い分けができる人にとって、Antigravityは強力な選択肢の一つになっている。
読者へ
全4回の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
本連載で取り上げたAntigravityは、これからも頻繁にアップデートされる。本記事の手順や画面、機能の一部は、数か月後には変わっている可能性が高い。それでも、「コードを書かずにAIでものを作る」という体験そのものは、ここに記録した通りの感触で実行できる時代になっている。
実際に触れてみることをおすすめしたい。本連載が、その一歩を踏み出すきっかけになれば幸いである。