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Verbexの音声対話AIはなぜ「使えない領域」に届くのか 独自STT/TTSが拓くオンプレ・閉域・ガバクラ対応

PlusWeb3 編集部
PlusWeb3 編集部 Web3・AI専門メディア

2026年6月1日、音声対話AIプラットフォームを提供する株式会社Verbexが、音声対話AIのセキュア導入形態を拡張したと発表しました。これまでのクラウド型提供に加え、オンプレミス環境・プライベートクラウドからの閉域アクセス・ガバメントクラウド対象クラウドサービス上での利用を想定した構成に対応します。狙いは明快です。金融機関や自治体、医療機関のように「AIを使いたくても、セキュリティ要件で使えなかった」組織に、音声対話AIを届けることにあります。本記事では、この発表が音声AI市場にとって何を意味するのか、そしてVerbexという企業の輪郭を含めて考察します。

Verbexが拡張した「セキュアな音声AI導入」とは

今回の発表の核心は、音声対話AIを顧客のセキュリティポリシーに合わせて「置く場所」と「つなぎ方」を選べるようにした点にあります。従来、生成AIや音声AIの多くは外部クラウド上で動かすことが前提でした。しかし、扱うデータや業界規制によっては、その前提そのものが導入の障壁になります。

Verbexは今回、3つの導入形態に対応します。顧客が管理するオンプレミス環境への導入、企業が管理するクラウド環境・専用線・VPN・閉域網を活用した閉域アクセス、そして自治体・行政向けを想定したガバメントクラウド対象クラウドサービス上での構成です。これにより、個人情報や機密情報を扱う業務、既存ネットワークや基幹システムとの接続制約がある業務、公共領域のクラウド利用要件が求められる業務でも、各組織の運用要件に沿った導入を進めやすくなると考えられます。

ポイントは、Verbexがこれを外部の音声認識・音声合成APIに頼らず実現しようとしていることです。後述するように、Verbexは音声認識(STT)と音声合成(TTS)のモデルを自社で研究開発しています。AIの提供形態を柔軟に変えられる背景には、この「中核技術の内製」があります。

参考:PR TIMES「Verbex、独自STT/TTSモデルを基盤に、音声対話AIをオンプレミス・閉域接続・ガバメントクラウド想定構成へ対応拡大」

なぜ音声対話AIに「導入の壁」があったのか

電話応対、問い合わせの一次対応、予約受付、受注対応、代表電話の一次受け、社内問い合わせ──。音声対話AIが活躍できる領域は急速に広がっています。技術的には「もう使える」段階に入っている、というのが現在地です。

それでも本番導入が進みにくい業種がありました。金融機関、大手企業、自治体・官公庁、医療機関、BPO事業者などです。これらの組織では、音声対話AIの導入にあたって次のような要件が大きな検討事項になっていました。

  • 個人情報・機密情報を扱う業務におけるデータ管理要件
  • 既存のPBX、CTI、CRM、基幹システムとの安全な接続
  • インターネット経由ではなく、閉域網や専用ネットワーク経由での利用
  • クラウド利用に関する社内規程、業界規制、監査要件への対応
  • 自治体・行政機関におけるガバメントクラウド関連要件
  • 応答ログ・通話ログ・個人情報の取り扱いに関するガバナンス

つまり、これらの組織にとっての論点は「AIが賢いかどうか」ではありませんでした。「クラウドでどこまで使えるのか」「既存システムと安全につながるのか」「セキュリティ要件を満たせるのか」という、技術の手前にある運用と統制の問題です。性能が高くても、この壁を越えられなければ実証実験(PoC)止まりになってしまう。ここが従来のボトルネックだったと整理できます。

裏を返せば、規制が厳しい業種ほど、定型的な電話対応や問い合わせ対応の負荷は大きいということでもあります。需要が大きいのに導入が進まない──この需給ギャップを埋めにいくのが、今回の対応拡大の背景にある狙いだと見られます。

Verbexが対応する3つの導入形態

では、具体的に何が変わったのか。今回Verbexが対応する3つの形態を、想定される使われ方とあわせて見ていきます。

1. オンプレミス環境への対応

1つ目は、顧客企業や機関が管理するオンプレミス環境への導入です。外部クラウドの利用に制約がある組織や、データを自社の管理環境内で扱う必要がある組織でも、検討の土俵に乗せやすくなります。

Verbexが想定する活用領域は幅広く、金融機関の顧客問い合わせ対応、自治体の住民問い合わせ対応、医療機関の予約・問い合わせ対応、大手企業の社内問い合わせ対応、重要インフラ企業の代表電話・受付対応、BPO/コールセンター事業者の専用環境でのAI応対基盤などが挙げられています。ネットワーク、データ保管、ログ管理、外部接続範囲を顧客ごとのセキュリティポリシーに合わせて設計できる点が、この形態の肝になります。

2. プライベートクラウドからの閉域アクセス

2つ目は、プライベートクラウド環境からの閉域アクセスです。企業が管理するクラウド環境、専用線、VPN、閉域網などを使いながら、PBX、CTI、CRM、FAQデータベース、予約システム、受注管理システム、基幹システムなどと安全に連携できる構成を提供します。

ここで効いてくるのが、想定されているニーズの解像度です。既存のコンタクトセンター基盤と音声対話AIを連携したい、CRMや顧客データベースと安全につなぎたい、インターネットを経由せずにAI基盤へアクセスしたい、BPO事業者が顧客ごとに分離されたAI応対環境を提供したい、SIerが自社のクラウド/ネットワーク基盤上で音声AIサービスを組み込みたい──。いずれも、現場のシステム担当者が実際に直面する課題です。

この対応により、音声対話AIを単体のサービスではなく、既存のエンタープライズシステムの一部として業務プロセス全体に組み込みやすくなると考えられます。「AIを試す」から「業務基盤として組み込む」へ、という位置づけの変化がここに表れています。

3. ガバメントクラウド対象クラウドサービス上での構成

3つ目は、自治体・官公庁および行政向けシステムベンダーとの連携を想定した、ガバメントクラウド対象クラウドサービス上での利用を想定した構成です。

想定されるユースケースとして、自治体代表電話の一次対応、よくある質問への自動回答、問い合わせ内容に応じた担当部署の案内、開庁時間外の一次受付、庁内職員向けの問い合わせ対応、災害時・繁忙期など問い合わせが集中する場面での一次対応が挙げられています。

自治体・行政機関では、限られた職員数で住民対応の品質を維持・向上することが継続的な課題です。Verbexは音声対話AIの活用によって、住民が電話した際の待ち時間削減、職員の定型対応負荷の軽減、問い合わせ対応の標準化に貢献していくとしています。人手不足が構造的に進む公共領域において、この3つ目の構成が持つ意味は小さくありません。

独自STT/TTSモデルが「オンプレ化」を可能にする理由

3つの形態を支えているのが、Verbexの技術的な土台です。Verbexは、STT(Speech to Text/音声認識)、TTS(Text to Speech/音声合成)、Speech Engineなど、音声対話に必要な中核技術を独自に研究開発・提供しています。

これがなぜ重要なのか。一般に、音声AIサービスの多くは外部の音声認識・音声合成APIを組み合わせて構築されます。便利な反面、その構成では「外部サービスにデータを送る」ことが前提になりやすく、オンプレミスや閉域網のように外部接続を絞りたい環境とは相性が悪くなります。外部APIに依存していると、顧客のセキュリティポリシーに合わせて構成を作り替える自由度が下がってしまうのです。

Verbexは音声認識・音声合成モデルと音声対話基盤を自社で保有することで、外部APIに依存しない構成を設計しやすくしています。結果として、顧客ごとのネットワーク、データ管理、ログ管理、外部接続範囲に合わせた環境を提供できる。「中核を握っているからこそ、置き場所を選べる」──今回のセキュア対応は、この技術内製と表裏一体だと考えられます。

音声認識・音声合成・応答制御・通話体験を一体で設計できることは、低遅延で自然な対話を作り込むうえでも有利に働きます。技術の内製は、セキュリティ対応の柔軟性と対話品質の両面を支える設計思想だと見られます。

Verbexという企業 ― ミッション・チーム・知財

ここで、発表の主体であるVerbexがどんな企業なのかを確認しておきます。

Verbexは「声で世界をつなぐ」をミッションに掲げ、独自の音声対話技術を研究開発するAIスタートアップです。STT/TTS/Speech Engineといった音声対話に必要な機能や、データのトレーニングメソッドを独自に研究開発し、自然で低遅延な対話を実現する音声AIプラットフォームを提供しています。

チーム構成も特徴的です。経営メンバーはバングラデシュと日本のシリアルアントレプレナーで組まれており、国際ハイブリッドなスタートアップとして、アジア・日本発の音声AIの実用化を進めてきました。さらに、すでに日本を含む25カ国で56件の特許を保有しているとされ、独自技術の研究開発とグローバル展開を見据えてきた企業であることがうかがえます。音声AIという競争の激しい領域で、自社モデルと知財を積み上げてきた点は、今回のオンプレ対応の信頼性を裏づける材料になり得ます。

これまでVerbexは、通販の受注電話、問い合わせ対応、代表電話の一次受け、予約受付など、電話業務を中心に音声対話AIの活用を進めてきました。特にテレビ通販やEC・通販事業者では、放送直後やキャンペーン時に入電が集中し、電話がつながらないことによる機会損失や顧客体験の低下が課題になります。Verbexの音声対話AIは、こうしたピーク時の受電対応や定型問い合わせの自動化に使われてきたとしています。今回の対応拡大は、その実績の延長線上で、より規制の厳しい領域へ踏み出す一手だと位置づけられます。

会社概要としては、本社は東京都港区南麻布、代表者は森下将憲氏、業種は情報通信。コーポレートサイトは jp.verbex.ai で公開されています。

音声AI市場とキャリアへの示唆

この発表を、働く人・採用する人の視点から眺めると、いくつかの示唆が見えてきます。

第一に、音声AIの主戦場が「コンシューマー向けの便利ツール」から「エンタープライズ・公共の業務基盤」へ移りつつあるということです。オンプレや閉域、ガバメントクラウドといったキーワードは、いずれも大企業・規制業種・行政の世界の言葉です。音声AIがこの領域に本格的に入っていくなら、求められる人材像も変わります。モデルを作るML/音声処理のエンジニアだけでなく、ネットワーク設計、セキュリティ、既存基幹システムとの連携(PBX・CTI・CRM)を理解した実装・導入人材の価値が高まると考えられます。

第二に、SIerやBPO事業者にとって、音声AIを「組み込んで提供する」側のニーズが生まれる点です。閉域構成で顧客ごとに分離されたAI応対環境を設計・運用する、といった役割は、まさにこれから立ち上がっていく仕事です。AIそのものを開発する企業だけでなく、AIを現場の業務に実装するプレイヤーにも人材需要が広がっていく──ここはディープテック/AI領域でキャリアを考える人にとって、見逃せない動きだと言えます。

第三に、独自モデルを持つスタートアップという観点です。外部APIに頼らず音声の中核技術を内製している企業は、技術的な裾野が深く、研究開発から社会実装まで一気通貫で関われる環境がある可能性があります。音声・対話・低遅延処理といった専門性を磨きたいエンジニアにとっては、こうした自社モデル型のスタートアップは有力な選択肢になり得ます。

今後の展望

最後に、今回の発表が描く先を整理します。

基幹システムと連携する「リアルタイムAI基盤」へ

Verbexは今後、PBX、CTI、CRM、予約システム、受注管理システム、FAQデータベース、基幹システムなどとの連携を進め、音声対話AIを単なる応答システムではなく、業務プロセス全体を支えるリアルタイムAI基盤へ発展させていくとしています。電話を受けて返すだけでなく、その先の業務処理までつながっていく構図です。音声AIの評価軸が「自然に話せるか」から「業務がどれだけ前に進むか」へ移っていくことを示唆しています。

規制業種での「本番導入」が広がるか

金融、自治体、官公庁、医療、BPO、大手エンタープライズなど、高いセキュリティ要件を持つ領域での本番導入が現実的になれば、音声AIの市場は一段広がる可能性があります。電話がつながらない状態の解消、定型問い合わせの自動化、24時間365日の一次受付、繁忙期や災害時の問い合わせ集中への対応、CRMや基幹システムと連携した業務処理など、想定される業務変革は多岐にわたります。これらが実証から本番へ進むかどうかが、次の注目点になると見られます。

人とAIの協働をどう設計するか

もう一つの論点は、人とAIの役割分担です。定型対応をAIが担うことで、人のオペレーターはより高度な対応に集中できる──Verbexが描くのはそうした業務設計です。AIに任せる範囲、人が判断する範囲、確認を入れる段階をどう決めるか。これは技術の問題であると同時に、組織と業務をどう作り替えるかという問題でもあります。音声AIの導入が広がるほど、この設計力を持つ人材の重要性が増していくと考えられます。

規制やネットワーク要件を理由に音声対話AIを諦めていた領域に、選択肢を増やす。今回のVerbexの対応拡大は、音声AIが「導入できない領域」から「導入できる領域」へと広がっていく流れを象徴する一歩だと言えそうです。この市場の動きが、どんな人材を必要としていくのか──引き続き注視していきます。

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