Lovableは2026年8月、4億ドルのシリーズC資金調達を発表し、企業価値は133億ドルに達しました。2024年11月のサービス開始以降、Lovableで作られたプロジェクトは6,000万件を超え、公開されたアプリなどへの訪問は月間9億回以上に広がっています。同社は現在、会話を通じてアプリを作るだけでなく、決済、検索で見つけてもらうための機能、外部サービスとの連携、安全に使うための仕組みなども広げています。
さらに今後は、利用者が何を実現したいのかを理解し、必要な作業まで支えるサービスへの進化を目指しています。Lovableがアプリ作成の支援から事業運営までを支える存在へどのように変わろうとしているのかを明らかにするため、本プロジェクトの詳細を考察します。
専門知識の壁を下げるLovableが変えるソフトウェア開発
これまで新しいWebサービスや社内向けのシステムを作るためには、プログラミングの知識だけでなく、開発を担当する人材やまとまった予算、開発期間などを確保する必要がありました。そのため、仕事の中で「このような仕組みがあれば便利になる」と感じても、実際に形にするまでには大きな壁がありました。
Lovableが目指しているのは、こうしたソフトウェア開発の入り口を広げることです。同社は、実際に課題を抱えている人自身が、その課題を解決するためのソフトウェアを作れる環境を目指しています。専門的な開発知識を持つ人だけではなく、事業や日々の仕事をよく知る人も開発に関わりやすくする考え方です。
利用の広がりにも、その変化が表れています。Lovableは2024年11月にサービスを開始してから1年以内にFortune 500企業の半数にあたる企業の従業員へ広がり、その後はおよそ3分の2の企業で従業員に利用が広がっていると発表しています。
この動きが続けば、企業では「システムが必要になったら専門の開発部門にすべて依頼する」という方法だけでなく、実際に業務を担当している人が必要な仕組みを考え、短い期間で形にする選択肢も増えていきます。Lovableは、生成AIの活用先を文章や画像の作成だけでなく、「必要なソフトウェアを自分たちで作る」という領域まで広げようとしているサービスと考えられます。
参照:Lovable「We just raised $400M in Series C funding to help people run their businesses」
作るだけで終わらない、Lovableが事業運営まで支える仕組み
Lovableは、アプリを短時間で作れることだけを重視しているわけではありません。作ったサービスを利用者に届け、収益につなげ、その後も安全に運営していくための機能を広げています。特に2025年12月のシリーズB資金調達以降は、顧客を増やすための仕組みや日々の業務に必要な機能、安全に利用するための仕組みなどを強化してきました。ここでは、Lovableがアプリを「作るところ」から、その後の「使い続けるところ」まで対応するために進めている取り組みを3つの視点から紹介します。
作ったサービスから収益を生み出しやすくする
アプリやWebサービスは、完成しただけでは事業として成り立ちません。利用者に知ってもらい、実際に使ってもらい、必要に応じて料金を受け取れる仕組みまで整える必要があります。Lovableはこの部分にも力を入れており、作成したサービスで料金を受け取るための決済機能を提供しています。
また、Googleなどの検索やAIを使った検索からサービスを見つけてもらいやすくするための機能も強化しています。これにより、アプリを作った後に別のサービスをいくつも組み合わせながら、決済や集客の仕組みを一から整える負担を減らせる可能性があります。
Lovableが公表した利用者向けの調査では、およそ8割が将来的な収益化を目指して事業や副業のプロジェクトを作っているとされています。そのうち3分の1以上は、すでに収益を得ているとしています。この数字はLovable自身による調査結果ですが、利用者の中で「試しにアプリを作る」だけではなく、その先の事業化を考える人が多いことを示しています。
普段使っているサービスとつなげて仕事に活用する
企業の仕事では、一つのアプリだけですべての作業が終わるケースは多くありません。資料を作るサービス、顧客情報を管理するサービス、支払いを受ける仕組みなど、複数のサービスを組み合わせながら業務を進めるのが一般的です。
Lovableは、Google WorkspaceやMicrosoft 365、Salesforce、Stripe、ElevenLabsなど、企業ですでに使われているさまざまなサービスとの連携を深めています。
こうした連携が充実すれば、企業は今使っている仕組みをすべて捨てて新しいものへ置き換える必要はありません。例えば、すでに管理している情報を使いながら、新しく作った社内アプリに必要なデータを表示したり、日々の仕事の一部だけを使いやすい形に作り直したりする方法が考えられます。
企業が安心して使うための仕組みも強化
企業が日々の仕事でソフトウェアを利用する場合、便利さや開発の速さだけでは十分ではありません。社内情報や顧客情報を扱う可能性があるため、安全に利用できることや、誰が何を公開できるのかを管理できることも大切です。
Lovableは、自動で行う安全性の確認や、決めた時間に実行できる詳しいチェック機能などを用意しています。また、アプリを公開できる人を管理する機能や、長期間使われていないアプリを整理する仕組み、社内でどのようにLovableが使われているかを確認する機能も整えています。
さらにLovableは、AIが自動的に作業を進める仕組みを対象とした安全性の基準「AIUC-1」の認証を取得しています。同社によると、AIを使ったコーディングサービスとして初めての取得となります。
一般公開したLovable製アプリには、安全性に関する情報を確認できる専用ページも自動的に用意されます。ただし、このページが表示されること自体が、そのアプリの安全性や法律への対応を保証するものではありません。
企業の現場で広がるLovableの活用方法

Lovableは、新しいサービスを試しに作るためだけではなく、すでに事業を行っている企業の中でも使われ始めています。活用方法は、新しいサービスの立ち上げ、社内業務の改善、これまで使っていた外部サービスの見直しなどさまざまです。ここで重要なのは、単純に「AIを使えば開発が速くなる」という話だけではありません。実際の仕事をよく知っている担当者が、自分たちに必要な仕組みづくりへ直接関われるようになっている点です。Lovableが公表している企業事例から、現場でどのような使われ方が生まれているのかを見ていきます。
少人数でも新しいサービスを形にしやすくなる
英国のWNTDでは、長年にわたり事業づくりに関わってきたLex Deak氏が、Lovableを使ってファッション商品を探すためのアプリを作りました。Lovableの発表では、従来の方法と比べて毎月2万5,000~3万ポンドの費用を抑えながら、数十万人規模の顧客を迎え入れ、300万ポンドの資金調達にもつながったとされています。
また、旅行サービスを手がけるAVARAの創業者は、14年前から持っていたアイデアをLovableによって実際のサービスへ変えたと説明しています。以前は大きな資金や大規模な開発チームがなければ実現が難しいと考えていたものを、一人で形にした事例です。現在は100カ国以上で利用されているとしています。
これらはLovableが紹介している利用事例であり、すべての事業で同じ成果が出ることを意味するものではありません。一方で、大きな開発チームを最初から用意できない人でも、アイデアを実際に動くサービスへ変えやすくなっていることは注目すべき点です。
開発に必要な初期費用や時間を抑えられれば、まず小さくサービスを公開し、利用者の反応を見ながら改善する方法も取りやすくなります。新規事業への挑戦方法そのものが変わる可能性があります。
社内の困りごとを現場から改善する
Lovableは、一般利用者に提供するサービスだけでなく、企業内部で使う仕組みづくりにも利用されています。
人材関連のサービスを手がけるCheckrでは、業務を担当するチームが品質確認の作業にあった問題を改善するための仕組みをLovableで作りました。その結果、同社の説明では、処理できるレポート数が以前の10倍になったとされています。
さらにCheckrでは、事業の振り返りや今後の予定、目標、プロジェクトの進み具合などを一カ所で確認するための社内システムも作っています。
Zendeskでも、社内研修に使うツールや、今後どのような製品を開発していくかを管理するためのアプリなどにLovableが使われています。既製のサービスを追加購入するのではなく、自社の仕事の流れに合わせた仕組みを作る方法が取られています。
このような使い方が広がると、業務で不便を感じている担当者が、その課題を開発部門へ伝えて完成を待つだけではなく、必要な仕組みづくりへ直接関われる可能性があります。
現場の仕事は企業ごとに細かな違いがあります。そのため、市販されているサービスでは対応しにくい小さな課題を、自社に合った形で解決できることはLovableの活用方法の一つになりそうです。
増え続けた外部サービスを見直す選択肢にもなる
企業では仕事を効率化するため、さまざまな外部のソフトウェアを導入しています。しかし、サービスが増えすぎると、それぞれに利用料金がかかるだけでなく、情報が分かれたり、複数の画面を行き来したりする負担も生まれます。
米国のNursaでは、Lovableの利用がこうした既存システムの見直しにも広がっています。同社は看護学校向けの新しいサービス「Nursa Study」を一度の週末で作り、その後、200人を超える従業員へLovableの利用を広げました。
また、Nursaは自社の中心となるプラットフォームの再構築を従来と比べて12倍の速さで進めたとしています。さらに、これまで利用してきた10種類の外部サービスについても、社内で必要な仕組みを作ることで段階的に利用を終える取り組みを進めています。
もちろん、すべての外部サービスを自社で作り直すことが最適とは限りません。専門サービスを使い続けた方が効率的な場合もあります。
一方で、AIを使って自社向けのツールを以前より作りやすくなれば、「市販のサービスを契約するしかない」と考えるのではなく、「本当に外部サービスが必要なのか」を見直す選択肢が生まれます。Lovableは開発時間を短くするだけでなく、企業がどのようにソフトウェアをそろえるかという考え方にも影響を与える可能性があります。
世界展開を支える投資家と組織づくり
Lovableが今後さらにサービスを広げていくうえでは、技術だけでなく、それを支える人材や組織づくりも重要になります。今回の4億ドルの資金調達はMenlo Venturesが主導し、EQTが運営するScaleup Europe Fundも共同で資金調達を主導しました。
さらに欧州からBalderton CapitalやCarmignac、南米からKaszek VenturesやLTS Growth、アジアからTencentやWorld Innovation Lab、米国からRegentが新たに参加しています。以前から投資しているAccelやCapitalG、Salesforce Venturesなども引き続き参加しており、さまざまな地域の投資家がLovableの成長を支える形になっています。
Lovableはスウェーデンのストックホルムを中心となる拠点として維持しながら、ロンドン、ボストン、サンフランシスコ、ニューヨークでも組織を広げる方針です。また、2026年中に従業員をおよそ450人まで増やす計画を示しています。特に、AIの仕組みを開発する人材、製品開発、サービスを安定して動かすための技術、安全性を担当する人材を重点的に採用するとしています。
利用する企業や個人が増えれば、アプリを作る機能だけでなく、サービスが安定して動くことや企業が安心して使える環境を整えることも重要になります。今回の採用計画は、利用者の増加に対応すると同時に、Lovableを長く使われるサービスへ育てるための準備とも考えられます。
今後の展望
Lovableは今後、利用者から指示を受けてアプリを作るサービスから、事業の目的や状況を理解しながら必要な仕事まで支える存在へ進もうとしています。ここからは、同社が公式に示している今後の方向性をもとに、Lovableならではの変化が企業や働き方にどのような影響を与える可能性があるのかを3つの視点から考察します。
指示されたことを行うAIから、必要なことを先回りして支えるAIへ
現在の生成AIは、利用者が質問や指示を入力し、それに応じて回答や成果物を返す使い方が中心です。Lovableもこれまでは、「このようなアプリを作りたい」と利用者が伝え、その内容をもとにソフトウェアを形にする使い方が大きな役割を占めてきました。
一方でLovableは今後、利用者が何を実現しようとしているのかを理解し、注意すべき部分を見つけたり、必要な作業をより積極的に支えたりする方向へ進む方針を示しています。利用者から毎回細かく指示されるのを待つだけではなく、目的に合わせて必要な仕事を手伝うサービスへ近づけようとしていると考えられます。
この方向が進めば、Lovableを使う場面は「アプリを作るとき」だけではなくなる可能性があります。
例えば、ネット上でサービスを運営している企業であれば、利用状況を見ながら改善した方がよい部分を示したり、事業内容が変わった際に必要となる新しい機能づくりを助けたりする使い方が考えられます。社内向けの業務アプリでも、仕事の手順が変わったときに、それに合わせた修正を支援する形が考えられます。
これらの具体例は現時点でLovableが正式に発表している機能ではなく、同社が示した「より積極的に利用者を支える」という方針から考えられる将来像です。
「作れたか」だけでなく「本当に役立ったか」を学ぶ仕組みへ
Lovableが示している今後の方針の中でも特徴的なのが、作ったソフトウェアが実際にどのような結果につながったのかを学ぶ考え方です。
これまでの生成AIでは、利用者から求められた文章や画像、プログラムなどを正しく作れるかどうかが大きな評価の基準でした。しかし、事業で使うアプリの場合、正しく動くだけでは十分とは限りません。
例えば、商品を販売するアプリであれば、実際に売上につながったのかが重要です。社内向けのアプリであれば、仕事にかかる時間が減ったのか、作業が分かりやすくなったのかなどが重要になります。
Lovableは今後、ソフトウェアが正しく作られたかだけではなく、売上を生んだか、仕事を改善したか、事業の成長につながったかといった結果まで理解することを目標にしています。
多くの利用者がLovableでサービスを作り、その後の結果が積み重なれば、「どのような作り方が良い結果につながりやすいのか」という共通する傾向を見つけられる可能性があります。
将来的には、商品を販売するサービスを作る際に利用者が行動しやすい画面づくりを支えたり、社内ツールを作る際に作業を減らしやすい仕組みを提案したりする方向へ発展することも考えられます。ただし、これらは現在発表されている具体的な機能ではなく、Lovableが掲げる方針から考えられる活用方法です。
現場で働く人が自分たちのソフトウェアを育てる時代へ
Lovableが繰り返し示している考え方の一つが、「課題を最もよく知る人が、その課題を解決する力を持てるようにする」というものです。
この考え方が企業の中に広がれば、今後は「新しいシステムが必要になったら開発部門に依頼する」というこれまでの流れだけではなくなる可能性があります。
営業担当者が自分たちに合った顧客管理の仕組みを作ったり、人事担当者が採用活動を管理するアプリを作ったり、マーケティング担当者がキャンペーンを管理するための仕組みを作ったりする場面が増えることも考えられます。
大切なのは、単に一度アプリを作れるようになることではありません。実際にその仕事を担当している人が、日々感じた不便や業務の変化に合わせて、自分たちが使う仕組みを継続的に改善できることです。
企業の仕事は、社内制度の変更、新しい商品、顧客からの要望などによって常に変化しています。従来のシステム開発では、小さな変更でも担当部署への依頼や開発期間が必要になることがありました。
Lovableのようなサービスによって現場での修正がしやすくなれば、仕事の変化とソフトウェアの変化との時間差を小さくできる可能性があります。
一方で、誰でも社内向けのアプリを作りやすくなれば、新しい課題も生まれます。似たようなアプリが社内に増えたり、重要な情報を適切に管理できなくなったりしないよう、企業側でルールを整える必要があります。