2026年5月21日、米カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、AI普及による雇用への影響調査と失業対策の検討を州当局に命じる行政命令に署名した。AIによる生産性向上の利益を労働者にも還元することを目的としており、州政府によれば同様の取り組みは全米初となる。
加州、AI失業リスク調査と支援策見直しへ
今回の命令では、州当局に対し、AIが労働市場へ与える影響に関するデータ収集と分析を進めるよう指示した。特に、どの職種で雇用減少や賃金低下が起こりうるのかを把握し、将来的な混乱への備えを強化する狙いがある。
対象となるのは、雇用保険や退職金制度など既存のセーフティーネット(※)政策の見直しに加え、再教育や職業訓練の拡充である。AI導入によって業務効率が向上する一方、事務職やカスタマーサポート、単純作業を中心に人員削減が進むとの懸念は以前から指摘されてきた。
さらに注目されるのは、AIによる企業成長の利益を労働者の資産形成へ結び付ける支援策まで検討対象に含めた点だ。単なる失業対策ではなく、「AI経済で生まれる富を誰が得るのか」という分配問題に州政府が踏み込み始めたと言える。
※セーフティーネット:失業や病気、経済危機などによって生活が困難になった際、最低限の生活を支える社会保障制度や公的支援策の総称。
“AI失業時代”の制度設計競争が始まる可能性も
カリフォルニア州の動きは、全米のAI政策に影響を与える可能性がある。同州には多くのAI企業やテック企業が集中しており、AIによる雇用変化が最も早く表面化する地域の一つとみられているためだ。
実際、生成AIの急速な進化によって、一部企業では採用抑制や業務自動化が進み始めている。特にホワイトカラー業務への影響は大きく、従来は高度人材とされた職種でも業務代替が進む可能性があると考えられている。
一方で、AI産業そのものは巨大な成長市場でもある。適切な再教育や資産形成支援が機能すれば、新たな雇用創出や所得向上につながる余地も小さくない。州政府が「AI利益の再分配」を政策課題として扱い始めたことは、従来の産業政策とは異なる転換点になりうる。
ただし、財源確保や制度設計の難しさは依然として大きい。AIによる利益をどのように測定し、誰にどこまで還元するのかは明確になっておらず、今後は企業側の反発や政治的議論が強まる可能性もある。