2026年7月16日、大手スナック菓子メーカーのカルビー株式会社は、AIを用いてバリューチェーン全体の収益性を可視化・最適化する自社開発システム『C-BOSS』を全社で本格稼働させたことを発表した。
制約条件を反映し複数シナリオを高速検証 カルビー初のDX基盤
カルビーが今月より全社運用を開始した『C-BOSS(シーボス)』は、約1年3カ月を費やして自社開発された経営シミュレーションシステムである。
従来、同社では営業部門が表計算ソフトを用いて販売計画を作成し、それに応じて生産や調達の計画を個別調整する手法がとられていた。そのため、原料調達、生産、物流、販売といった多様なデータをタイムリーに連携させ、サプライチェーン(※)全体の収益性を把握することは容易ではなかったという。
『C-BOSS』は、ばれいしょの収穫量や工場の生産能力といった企業固有の制約条件を織り込みながら、複雑なシナリオを短時間で比較・検証できる機能を備えている。開発着手から全拠点での100回を超える説明会を経て、全部門のデータを一元管理する全社最適のプラットフォームが完成に至った。
同システムは、カルビーが掲げる「S&OP(※)」推進の核となる。原料費や物流費の変動を踏まえた利益最大化のプランを短時間で構築し、販売計画の最適化を図る環境が整った格好だ。企画部の大江智之部長は、新ツールとプロセスの活用により「環境変化に強い事業運営の実現につながる」と期待を込めている。
※サプライチェーン:製品の原材料調達から製造、在庫管理、配送、販売を経て消費者に届くまでの一連の供給流れのこと。
※S&OP:Sales & Operations Planningの略。需要と供給を横断的に調整し、全社的な利益最大化に向けた意思決定を行う経営手法。
食品DXの先行モデルとなるか 収益性向上と現場定着の課題
カルビーによる『C-BOSS』の導入は、原材料高騰や物流コストの急伸に直面する食品業界において、AIを活用したデータ駆動型経営の先進事例となると考えられる。
複雑な条件下でも利益を最大化するプランをタイムリーに試算できる点は、変動要素が多い食品メーカーにとって極めて強力な武器になり得る。部門間の壁を取り払い、共通の収益モデルに基づいて全社最適な意思決定を下せる仕組みは、企業の収益力を大きく底上げする公算が大きい。
一方で、AIによるシミュレーション結果を実業務へどこまで迅速に反映できるかという運用面の実効性が今後の鍵を握る。現場の判断や慣習が優先され、データに基づく意思決定が形骸化するリスクは常に存在するからだ。また、予測精度を高めるためには、データ精度の継続的な維持管理と現場への教育コストが不可欠となる。
今後は『Ver.2.0』『Ver.3.0』へのバージョンアップが予定されており、意思決定の更なる高度化が期待される。データ活用文化が定着すれば、他社に対する大きな競合優位性を確立する可能性があると言える。