2026年5月15日、富士通株式会社と日本アイ・ビー・エム株式会社は、ヘルスケア領域における協業の具体化を発表した。医療向けソブリンクラウド基盤の構築とAI活用を通じ、医療データの連携を加速し、持続可能な医療提供体制の確立を目指す。
医療向けソブリンクラウド構築へ本格始動
両社は、富士通が提供するソブリンクラウド基盤上で、双方の電子カルテシステムを稼働させる構成を構築する。これにより、複数の医療機関にまたがるデータ連携とAI活用を実現し、医療情報の安全な共有と高度利用を可能にする。
この取り組みの背景には、日本の医療需要の急増と供給体制の制約がある。高齢化の進展により医療費は年間48兆円規模に膨張する一方、医療人材の不足や医療機関の経営負担が深刻化している。また、医療データは標準化や構造化が進行途上にあり、横断的な活用が十分に進んでいない状況にある。
今回の協業では、AIを活用した診療記録や看護記録の作成支援、DPCコーディングの効率化など、現場業務の負担軽減を具体的に推進する。さらに、複数医療機関のデータを患者同意のもとで連携し、治験対象患者の探索や臨床研究の高度化にも活用する方針だ。
これにより、医療従事者が診療業務に集中できる環境を整備するとともに、医療と創薬の連携強化を通じた新たな価値創出も視野に入る。両社は今後、大学病院やナショナルセンターと連携しながら、段階的な実証と展開を進めるとしている。
※ソブリンクラウド:データの保存や処理を特定の国・地域の法制度下で管理し、主権やセキュリティを確保するクラウド形態。医療や金融など機密性の高い分野で導入が進む。
効率化の恩恵とデータ統制の課題
本協業の意義の一つは、医療データの利活用と主権確保を両立させる点にある。ソブリンクラウドの採用により、海外依存への懸念を抑えつつ、安全なデータ活用基盤を構築できる可能性がある。AIによる業務支援も進めば、医療従事者の負担軽減と診療の質向上が同時に実現する展開が期待される。
一方で、複数医療機関間のデータ連携には引き続き課題が存在するとみられる。データ形式の標準化や患者同意の取得プロセス、運用ルールの統一など、技術以外の調整コストが導入の障壁となる可能性がある。また、AIの判断過程に対する透明性や責任の所在も、実運用段階で重要な論点になると考えられる。
今後は、実証を通じたユースケースの蓄積とともに、医療機関間の連携モデルの確立が重要な要素となるだろう。これらの課題を乗り越えた場合、予約から治療後フォローまでを包括する患者起点の医療サービスへと進化する可能性がある。医療DXの進展度を測る一つの試金石となる可能性もある。
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