2026年8月、Generalist AIは新しいロボット向けAI「GEN-1.5」を発表しました。大きな特徴は、3〜12秒ほどの作業例を一度見せるだけで、追加の学習を行わずに新しい作業へ取り組める点です。同社が10種類の作業で行った実験では、一度の実演を見せる方法で平均59%の成功率を記録し、5分間のデータを使って10回の学習処理を行った場合には平均83%まで上がりました。
さらに、別々の作業をつなげる動きや、仮想空間の手本を現実で使う方法、人の動きをロボットがまねる例、見慣れない道具を使った対応なども紹介されています。ロボットへの仕事の教え方が大きく変わる可能性があるため、本プロジェクトの詳細を考察します。
GEN-1.5が目指す「幅広い仕事に対応できるロボット」
GEN-1.5は、Generalist AIが開発したロボット向けの基盤モデルです。基盤モデルとは、最初から一つの作業だけを覚えさせるのではなく、幅広い経験を事前に学ばせ、新しい仕事にも対応しやすくしたAIの土台を指します。
これまでロボットに新しい仕事を任せる場合には、専門知識を持つ担当者がプログラムや動作を調整する方法が広く使われてきました。GEN-1.5が目指しているのは、この準備にかかる手間を減らし、人が実際の作業を見せることでロボットへ仕事を伝えられる仕組みです。
GEN-1.5は映像だけを見るのではなく、センサーから得られる情報やロボット自身の状態なども使いながら、周囲の状況に合わせて次の動きを決めます。そのため、決められた動きをそのまま繰り返すだけではなく、目の前の物の位置や作業の状況に応じて動きを変えることを目指しています。
ただし、現在公開されている実験は、比較的短く単純な作業が中心です。どのような仕事でもすぐにこなせる万能ロボットが完成したわけではありません。GEN-1.5は、ロボットをより柔軟に使うための新しい方向性を示した技術として見ることが大切です。
参照:Generalist AI「GEN-1.5: Embodied Foundation Models are One-Shot Learners」
数秒の実演から新しい作業を覚えるGEN-1.5の仕組み

GEN-1.5で特に注目されているのが、新しい作業を教えるために大量のデータや長い学習時間を必ずしも必要としない点です。一度だけ手本を見せる方法に加えて、複数の手本を組み合わせたり、少量のデータで動きを調整したりする方法も確認されています。
3〜12秒の手本を見せるだけで作業に挑戦
GEN-1.5では、人やロボットが行った短い実演を見せ、その内容から何をする作業なのかを読み取らせる方法が使われています。Generalist AIは、この方法を「フィジカルプロンプティング」と呼んでいます。
1回の実演は3〜12秒ほどで、新しい作業のためにAIを改めて学習させなくても、そのまま作業へ取り組めます。同社が10種類の作業で行った実験では、財布からお金を取り出す、容器のふたを開ける、筆箱のファスナーを開けるといった作業で平均59%の成功率となりました。
まだ必ず成功する水準ではありませんが、数秒の手本だけで一定の動作を行えた点は重要です。文章だけでは伝えにくい手の向きや物への触れ方などを、実際の動きとして見せられることも、この方法の特徴だと考えられます。
別々に教えた二つの作業を一つにつなげる
GEN-1.5は、一つの手本をそのまま再現するだけではありません。別々に見せた作業を組み合わせ、一連の流れとして実行する例も公開されています。
実験では、「筆箱のファスナーを開ける動き」と「中からお金を取り出す動き」を別々の手本として与えています。するとGEN-1.5は、最初にファスナーを開け、その後に中のお金を取り出すところまでを一つの作業として行いました。
さらに、二つの作業の間に必要となる手の移動や物の持ち直しなども、自ら補う動きが確認されています。こうした仕組みがさらに安定すれば、長い作業を最初から最後まで一度に見せるのではなく、短い動作をいくつか用意し、それらを組み合わせて新しい仕事を作る方法につながる可能性があります。
数分のデータでも作業の成功率を高められる
GEN-1.5には、短い実演をその場で見せる方法だけでなく、少量のデータを使ってAIの動きを調整する方法もあります。Generalist AIの実験では、1〜5分ほどの作業データを使い、わずか1〜10回の学習処理で新しい作業への対応を試しています。
10種類の作業について、1種類あたり5分のデータを使って10回の学習処理を行ったところ、平均成功率は83%となりました。また、1分間のデータを使って1回だけ学習処理を行った別の検証では、対象となった作業で66.5%の成功率が報告されています。
Generalist AIは、GEN-1.5が事前に幅広い物理的な経験を学んでいるため、少しの調整でも新しい仕事へ対応しやすくなっている可能性を示しています。新しい作業ごとに大量のデータを用意する負担を減らせる点は、今後の実用化を考えるうえでも重要になります。
見た手本を別の状況でも使うGEN-1.5の応用力
GEN-1.5では、覚えた動きを同じ条件で繰り返すだけでなく、手本とは異なる状況へ対応する例も公開されています。仮想空間から現実への応用、人からロボットへの動きの置き換え、見慣れない道具への対応など、単純なまねだけでは説明しにくい動きが確認されています。
仮想空間で作った手本を現実のロボットで使う
Generalist AIは、コンピューター上の仮想空間で作った実演をGEN-1.5に見せ、その内容を現実のロボットに行わせる実験を公開しています。
GEN-1.5の事前学習には、仮想空間で作られた映像や動作データは含まれていないと説明されています。それでも、仮想空間の手本を見せることで、現実のロボットが対応する作業を実行しました。
さらに、手本とは異なるロボットハンドを使った場合や、物の位置や大きさが変わった場合にも対応する例が確認されています。すべての作業に使えると確認されたわけではありませんが、この方法が広がれば、実際のロボットを何度も動かして手本を集める代わりに、仮想空間で作業例を準備できる場面が増える可能性があります。
人が手で見せた作業をロボットがまねる
GEN-1.5では、人が自分の手で行った作業をロボットのカメラに見せ、その直後にロボットが同じ目的の作業を行う例も紹介されています。
人間の手とロボットの手では、形や動かせる範囲が同じではありません。そのため、映像をそのままコピーするだけでは同じ作業を行えない場合があります。公開された例からは、人が何をしようとしているのかを手本から捉え、ロボット自身が実行できる動きへ置き換えている可能性がうかがえます。
一方、Generalist AIも、この能力は「一部の場合」で確認されたものとしています。人がどのような動きを見せてもロボットが正しく理解できると確認されたわけではありません。現時点では、人による実演がロボットへの新しい教え方になる可能性を示した段階と見るのが適切です。
見慣れない道具や邪魔な物にも対応
GEN-1.5では、手本として教えられた方法とは別のやり方で目的を達成する動きも確認されています。
例えば、ブラシを使ってブロックをボウルへ入れる作業を学んだモデルに別の物を与えたところ、バナナをブラシの代わりに使ってブロックを動かしました。また、ちりとりを与えた場合には、ブラシのように動かすのではなく、ブロックをすくってボウルへ入れる方法を選んでいます。
ほかにも、ボウルの上に紙が置かれていると、その紙をどかしてから作業を進める例や、片手だけを使った手本を学んだ後でも、状況によって反対の手や両手を使う例が公開されています。
これらの結果は、決められた動きをそのまま再生するのではなく、目の前の状況に合わせて別の方法を選んでいる可能性を示しています。ただし、こうした動きが常に現れるとは限らないため、現時点ではGeneralist AIが確認した実験例として捉える必要があります。
GEN-1.5の進化を支える長期間の事前学習
GEN-1.5の特徴は、数秒の実演だけで生まれたものではありません。その土台には、Generalist AIが長期間続けてきた事前学習があります。同社は家庭や倉庫、工場など、さまざまな場所で得た物理的な作業経験を使い、ロボット向けAIの学習を進めています。
GEN-1.5は8カ月以上にわたって事前学習が続けられ、その期間中も、次にどのような動きをするべきかを予測する性能が改善し続けたと説明されています。学習を続けるにつれて、新しい作業へ対応するために必要なデータや計算の負担も小さくなる傾向が見られたとしています。
また、一度の実演から作業を覚えたり、見慣れない道具を使ったりする能力だけを目的にした専用の仕組みを追加したわけではない点も特徴です。Generalist AIは、大量の物理的な経験を事前に学ばせたことから、こうした能力が現れた可能性があると説明しています。一方で、なぜ一度の実演から学べる能力が生まれたのかについては、まだはっきりと特定できていません。
現在公開されている検証は、短時間で終わる比較的単純な作業が中心です。そのため、長時間続く複雑な仕事でも同じように対応できるとはまだ言えません。それでも、事前に幅広い経験を積ませることで、新しい仕事を短時間で覚えやすくするという考え方は、今後のロボット開発を考えるうえで重要な方向性になると考えられます。
今後の展望
GEN-1.5が示した技術が発展すると、ロボットは「決められた仕事だけを行う機械」から、必要に応じて新しい仕事を教えられる存在へ変わる可能性があります。ここでは、今回公開された内容をもとに、今後考えられる活用方法を3つの視点から考察します。
現場の担当者がロボットへ直接仕事を教える形へ
GEN-1.5の仕組みがより安定すれば、新しい仕事をロボットへ追加する際の流れが大きく変わる可能性があります。これまで、新しい動作を追加するときには、ロボットやプログラムに詳しい担当者による設定や調整が必要になる場面が多くありました。一方で、GEN-1.5は、数秒の作業例を見せるだけで新しい作業へ取り組む能力を示しています。
この仕組みが実際の現場で安定して使えるようになれば、例えば倉庫の担当者が商品の持ち方を実演したり、店舗スタッフが物の並べ方を見せたりすることで、ロボットへ新しい仕事を伝えられるようになる可能性があります。ロボットの専門家ではなく、実際の仕事をよく知っている人が直接教えられる点が重要です。
特に相性がよいと考えられるのは、仕事の内容が頻繁に変わる現場です。物流施設では、季節によって扱う商品が変わることがあります。工場でも、製品や部品が変われば必要な動きが変わります。こうした変化のたびに大がかりな設定を行うのではなく、新しい手本を見せて対応できれば、準備にかかる時間や負担を小さくできる可能性があります。
一方で、現状の一度の実演による平均成功率は、Generalist AIの実験で59%です。人の近くで動くロボットや、失敗が事故につながる仕事では、この水準のまま利用することは難しいでしょう。今後は作業の成功率を上げるだけではなく、自信がないときには停止する、人へ確認する、危険な動きを避けるといった仕組みも重要になると考えられます。
仮想空間で作った「仕事の見本」を共有する仕組みへ
GEN-1.5が見せた、仮想空間の実演を現実のロボットで使う仕組みは、ロボットへの仕事の教え方をさらに変える可能性があります。現在は新しい作業を覚えさせるために、実際のロボットを動かしてデータを集める方法が使われることがあります。しかし、実機を使ったデータ集めには場所や設備が必要になり、失敗による破損なども考える必要があります。
もし仮想空間で作った実演を安定して利用できるようになれば、コンピューター上でさまざまな作業例を用意し、必要なロボットへ渡す方法が考えられます。例えば、物流会社が新しい荷物の扱い方を仮想空間で作り、各地の倉庫へ共有するといった使い方です。メーカーが自社製品の扱い方を作業例として用意し、その製品を扱う現場へ提供する方法も考えられます。
さらにGEN-1.5は、別々に作られた短い実演をつなげる動きも示しています。この特徴を組み合わせれば、「物をつかむ」「ふたを開ける」「中身を取り出す」といった短い作業例を部品のように保存し、必要に応じて組み合わせる使い方へ発展する可能性があります。
将来、ロボット向けの作業例を共有できる仕組みが整えば、一つの企業や一つの現場だけで作業を覚えさせるのではなく、別の場所で作られた知識を再利用しやすくなるかもしれません。ただし、仮想空間と現実では物の重さや滑り方などに違いがあります。どこまで幅広い作業で正しく使えるかは、今後さらに確認が必要です。
一台のロボットに後から仕事を追加していく使い方へ
GEN-1.5から考えられるもう一つの変化は、ロボットを導入した時点で仕事を固定するのではなく、使いながら新しい能力を追加していく考え方です。
現在のロボットは、特定の目的に合わせて導入されるものが多くあります。しかし、GEN-1.5のように少ない実演や短時間の学習で新しい作業へ対応できる仕組みが発展すれば、同じロボットへ後から別の仕事を教える使い方がしやすくなる可能性があります。
例えば店舗では、最初は商品の移動だけを任せ、その後に簡単な片付けや棚の整理を追加する方法が考えられます。物流施設でも、通常は荷物の移動を行い、繁忙期には別の仕分け作業を追加するといった運用が考えられます。必要な仕事が変わるたびに別の専用ロボットを用意するのではなく、一台のロボットを長く使いながら対応できる仕事を増やしていく形です。
こうした使い方が広がれば、将来はロボット本体の性能だけではなく、「新しい仕事をどれだけ簡単に覚えられるか」も製品を選ぶ重要な基準になるかもしれません。スマートフォンがアプリを追加することで用途を増やしてきたように、ロボットも導入後にできることを増やしていく考え方です。ただし、ロボットは現実の物に触れて動くため、ソフトウェアだけの場合より安全確認が重要になります。
GEN-1.5で公開されているのは、比較的短い作業を使った実験です。長時間続く仕事や、人と同じ場所で行う複雑な作業にそのまま使えるわけではありません。それでも、「完成した仕事を持つロボットを買う」のではなく、「必要な仕事を後から教えられるロボットを使う」という考え方は、今後のロボット活用を大きく変える可能性があります。