2026年7月28日、富士通は、地方銀行をはじめとする金融機関向け専有型AIプラットフォーム「Uvance for Finance AI Transformation Platform」の開発を8月1日より開始すると発表した。機密性の高い金融データを安全に扱える環境を提供し、AIを業務や意思決定へ本格的に組み込む基盤の整備を目指す。
専有環境で金融AI活用を本格展開
富士通が開発する新プラットフォームは、専有型AI基盤「Fujitsu Kozuchi Enterprise AI Factory」をベースに構築される。データ主権(※)を確保しながら運用できる環境に加え、金融業界向け大規模言語モデル「Takane」や生成AIの安全性を高めるガードレール技術、複数のAIエージェントを組み合わせることで、高い機密性が求められる金融業務へのAI活用を支援する。
背景には、金融機関でAI活用への期待が高まる一方、機密情報の管理やサイバー攻撃への対応、人材不足、運用コストの増加といった課題がある。こうした事情から、AI導入が一部業務や実証実験にとどまり、全社展開まで進まないケースも少なくなかった。
今回のプラットフォームでは、融資審査や各種申請書類の作成・確認、照会対応などに「Takane」を活用するほか、AIの判断根拠や挙動、潜在的なリスクを可視化する生成AIトラスト技術も搭載する。さらに、顧客分析や営業提案を担う金融業務特化型AIエージェントが連携し、人手不足への対応や業務効率化を後押しする仕組みを提供する。
※データ主権:企業や組織が自らのデータの保存場所や利用方法、管理ルールを主体的に決定・統制できる考え方。機密情報を扱う金融分野では重要な要件とされる。
AI基盤競争は運用力が差別化要因に
富士通は2027年3月に本プラットフォームの提供開始を予定している。当初は融資審査や関連事務を中心に導入し、その後は営業店事務やコンプライアンス対応、レポーティング、顧客対応などへ対応領域を順次拡大する計画である。
また、複数の金融機関がAIエージェントや業務ノウハウを蓄積・共有できる共創エコシステムの形成も推進する方針を示した。個別業務の効率化にとどまらず、金融機関同士が知見を活用しながらAIを発展させる仕組みが構築されれば、継続的な業務改善につながる可能性がある。
一方で、AIを金融業務へ本格的に組み込むには、安全性やガバナンスを維持しながら継続的に運用する体制が欠かせない。生成AIの性能だけでなく、セキュリティ対策や運用支援、コスト管理まで一体的に提供できるかが導入の成否を左右すると考えられる。
金融業界ではAI活用が実証段階から実運用へ移行しつつある。富士通の取り組みは、専有環境と業界特化型AIを組み合わせることで、金融機関がAIを安全かつ継続的に活用する基盤づくりを加速させる試金石となりそうだ。