2026年6月12日、日本国特許庁(JPO)の主催により東京で開催された第19回日米欧中韓五大特許庁長官会合で、AI分野に関する新たな協力枠組みの構築が決定した。世界の特許出願の約85%を扱う五庁がAI特許審査の実務連携強化で合意し、専用の作業部会を新設する方針を示した。
五大特許庁がAI特許審査の新作業部会を設置
今回の会合には、日本国特許庁、米国特許商標庁(USPTO)、欧州特許庁(EPO)、中国国家知識産権局(CNIPA)、韓国知識財産処(MOIP)が参加した。五庁への特許出願件数は2024年時点で約318万件に達し、世界全体の約373万件のうち85%を占めている。
会合では、2021年に策定された「新技術・AI分野の協力に関する作業ロードマップ」の進捗を確認した。策定から5年が経過したことを受け、各庁はこれまでの成果を検証するとともに、AI技術の急速な発展に対応するため新たな協力方針を協議した。その結果、AI分野に特化した新たな作業部会の設置で合意した。
今後は実務レベルでAI関連発明の審査課題や運用の在り方について議論が進められる見通しである。
さらに五庁は、既存の協力体制についても見直しを行った。分類や審査、情報共有などを担う各作業部会の役割重複や煩雑な調整手続きを整理し、より効率的な運営を目指す方向性を確認した。
会合ではAI活用の現状や将来像についても意見交換が実施された。各庁は責任あるAI利用の重要性を共有し、知的財産制度がAI時代に果たすべき役割について認識を一致させている。
※特許審査ハイウェイ(PPH):先に審査した国・地域の特許庁で特許可能と判断された発明について、別の特許庁でも簡易な手続きで早期審査を受けられる国際的な協力制度。
AI特許ルールの国際標準化が加速する可能性
今回の合意は単なる情報交換にとどまらず、AI時代の知的財産ルール形成に向けた重要な一歩と位置付けられる。生成AIの普及に伴い、AIが関与した発明やAI技術そのものに関する特許出願は世界的に増加しており、各国で審査基準の整合性が課題となっていた。
今回のように五庁が共通の議論の場を持つことで、審査品質の向上や判断基準の透明化が期待される。企業にとっては複数国への出願戦略を立てやすくなり、国際展開の負担軽減につながる可能性がある。特にAIスタートアップや研究開発型企業にとっては、知的財産保護の予見性向上が大きなメリットとなるだろう。
一方で、AI技術の進化速度は極めて速い。各国の法制度や産業政策には違いがあり、AIが創作や発明にどこまで関与した場合に特許を認めるべきかといった論点は依然として議論が続いている。
また、過度な基準統一が各国独自の制度運用やイノベーション促進策を制約するリスクも否定できない。今後設置される作業部会では、国際的な整合性と各国の制度的柔軟性をどのように両立させるかが焦点になると考えられる。
AI開発競争が激化するなか、世界の特許制度そのものが新たな転換点を迎えつつあると言えそうだ。