2026年3月10日、ロイターは日本の金属素材メーカーJX金属が茨城県ひたちなか市の新工場に約230億円を投資し、先端半導体材料の生産能力を拡大すると報じた。AIデータセンター向け需要の急増を背景に、半導体供給網での競争力強化を狙う。
AI半導体材料を増産 230億円投資
JX金属は10日、茨城県ひたちなか市にある新工場に約230億円を投資し、半導体材料「スパッタリングターゲット(※)」の生産能力を拡大すると発表した。人工知能(AI)向けデータセンターの急速な拡大により、先端半導体に使用される材料需要が世界的に高まっているためである。
同社によれば、生産能力は2023年度比で約1.6倍へ拡大する計画だ。設備の増強は段階的に進められ、2027年度下期から順次稼働する見込みとなっている。急増する半導体需要に対応し、安定した供給体制を構築することが目的だ。
スパッタリングターゲットは、半導体回路の金属配線を形成する工程で使われる重要材料であり、先端ロジック半導体や高性能メモリの製造に欠かせない部材として知られる。AIサーバーやクラウドインフラの拡大に伴い、こうした材料の供給能力は半導体産業全体の競争力を左右する要素になりつつある。
同社はまた、チリのカセロネス銅鉱山の運営会社MLCCの株式5%と銅鉱山開発プロジェクトの権益を、カナダの資源企業ルンディン・マイニングに総額340億円で売却すると発表した。売却資金は半導体材料事業の設備増設などに充てる予定であり、資源事業の一部を整理しながら先端材料分野への投資を加速させる構図が見えてくる。MLCC株の売却は4月を予定しており、同社の持ち株比率は25%に低下する見込みだ。
※スパッタリングターゲット:半導体製造で金属薄膜を形成する材料。真空中で金属原子を基板へ付着させる「スパッタリング」と呼ばれる工程で使用され、半導体配線や電極形成に不可欠な部材である。
AIインフラ拡大で材料企業の役割拡大
今回の投資は、AI時代の半導体競争がチップメーカーだけでなく、材料や装置を含むサプライチェーン全体に広がっていることを示していると考察することができる。
データセンター向け半導体は高性能化が進み、材料の純度や品質への要求も一段と厳しくなっている。こうした環境では、先端材料を安定供給できる企業の価値が高まり、日本企業にとっても成長機会になり得るだろう。
特にスパッタリングターゲットのような材料は、製造ノウハウや精密加工技術が競争力の源泉となる分野だ。半導体メーカーの設備投資が続く限り、材料企業にも長期的な需要拡大の恩恵が及ぶ可能性があると言える。
今回の設備増強は、世界的なAIインフラ投資の波に日本企業が直接乗る動きとも解釈できる。
一方で、半導体市場は景気や投資サイクルの影響を強く受ける産業でもある。AI需要が想定ほど伸びなかった場合、設備投資の回収期間が長期化するリスクは否定できない。特にデータセンター投資は米国の巨大テック企業の戦略に左右されるため、市場の変動は常に意識する必要がある。
それでも、AIを中心としたデジタルインフラの拡張は世界的な構造変化であり、半導体材料の重要性は今後さらに高まると考えられる。
チップメーカーの陰に隠れがちな素材企業が、AI時代の産業競争で存在感を強めていく可能性は十分にある。