21世紀最多引用はマイクロソフトのAI論文 上位10本中4本が関連分野に集中

英科学誌ネイチャーは2025年6月7日までに、今世紀に発表された学術論文の引用数ランキングを公表した。最も引用されたのは米マイクロソフトが2016年に発表したAI関連論文であり、上位10本中4本をAI分野が占めた。
研究の活発化と技術革新の加速が改めて浮き彫りとなった。
最多引用は深層学習論文 AI関連が上位に集中
ネイチャー誌は今回、数千万本に及ぶ学術論文を網羅する5つの主要データベースを対象に引用数を比較し、21世紀の上位論文を選出した。各論文の引用数のうち、3番目に多いデータベースの数値を基準とすることで、偏りを排除した公正な評価を目指した。
最多引用となったのは、マイクロソフトが2016年に発表したディープラーニング(※)に関する論文であり、引用数は10万3千~25万4千回に達する。
これは、自然言語処理や画像認識といった現代のAI技術の中核を成す手法であり、対話型AI「ChatGPT」や、タンパク質構造予測AI「AlphaFold」の開発にもつながった重要な研究である。
さらに6~8位にもAI関連の論文が続き、深層学習の多様な応用範囲や技術的進展が研究界でいかに注目されているかが示された。
一方で、2~5位にはDNAの定量化、心理学的分析手法、精神障害の診断指標、X線散乱解析といった幅広い分野の論文も並び、科学全体におけるAIの台頭と他分野のバランスが共存している。
※ディープラーニング:人間の脳神経の仕組みを模した多層のニューラルネットワークを用いた機械学習の一手法。大量データの処理と高精度な予測が可能。
AI研究の急成長、学術の重心を再編成へ
AI論文がここまで多く引用される背景には、技術の革新速度と社会実装の拡大がある。特にディープラーニングは、画像認識や音声合成、創薬、金融といった多様な領域に応用されており、学術界・産業界を問わず極めて高い関心を集めている。
研究資金の集中もこの傾向を後押ししている。近年ではマイクロソフト、グーグル、オープンAIなど大手テック企業が研究資金を拠出し、トップ研究者との連携を強化。その成果が論文の質と量に直結しているとみられる。
一方で、AI分野に注目が集まることで、他分野の研究資源が相対的に縮小する懸念もある。引用数が資金配分の参考にされる中、学術の多様性を維持するにはAIと非AI分野のバランスある支援体制が求められるだろう。
今後、AIが研究手法そのものを変革する可能性も高い。論文生成、実験設計、データ解析といったプロセスにAIが活用されれば、科学の生産性そのものが再定義されることになる。
学術界は今、AIを「対象」とする研究から「手段」として活用するフェーズへと移行しつつある。