金融審議会、暗号資産の金商法化に慎重論 委員がIEOの壊滅的実績を問題視

2025年9月2日、金融庁は金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」の第2回会合を開催した。
暗号資産を資金決済法から金融商品取引法(金商法)に移管する案が議論される中、委員からはIEOの実態を踏まえた慎重な対応を求める意見が出た。
金融審議会、暗号資産の金商法移管に慎重意見
金融庁が2日に開催したワーキング・グループ(WG)では、暗号資産を現行の資金決済法(※1)から、より投資家保護を重視する金融商品取引法(金商法)で規制するべきかどうかが中心議題となった。
会合冒頭には業界団体から市場の現状説明が行われ、続いて委員による意見交換が進められた。
京都大学の岩下直行教授(元日本銀行金融研究所)は、主要暗号資産であるビットコインやイーサリアムに関しては、どちらの法制度で規制しても「大きな差はない」と述べ、必ずしも金商法化に反対する立場ではないことを明らかにした。
ただし、その一方で国内IEO(※2)の実績については厳しい姿勢を示した。
岩下氏は、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)が提示したIEO案件リストを例に挙げ、ほぼ全ての銘柄が上場後に公募価格を大幅に割り込み、中には90%以上下落してほぼ無価値化したケースもあると指摘。
このような投資商品を金商法の枠組みで「国民向けの投資対象」として扱うことは「正気の沙汰とは思えない」と述べた。
さらに岩下氏は、国内IEOの多くは事業への期待よりも短期的な値上がり益を狙った投機的なゲーム性が強く、「ネタ」や「ノリ」に近いと分析。
金融商品としての性格とは大きく異なるため、伝統的な市場からは隔離して扱うべきと提言した。
規制強化そのものが「国のお墨付き」と誤解される危険性にも言及した。
※1 資金決済法:暗号資産交換業者の登録や利用者資産の管理方法などを定める法律。
主に決済や送金の安全性確保を目的とする。
※2 IEO(Initial Exchange Offering):暗号資産取引所が仲介して行うトークンの新規発行・販売方式。
暗号資産規制の行方 投資家保護と成長戦略のせめぎ合い
今後の展望としては、暗号資産を資金決済法から金商法へ移管する議論は、日本市場の転換点になると考えられる。
短期的には、金融庁が制度案を具体化する過程で、投資家保護を重視する方向性が優先される可能性が高い。
その際、IEO市場の実績不振がたびたび取り上げられ、慎重論が強まる展開も見込まれるだろう。
中期的には、透明性と信頼性を高める規制設計が整備され、海外投資家を含む市場参加者の安心感を醸成する一方で、過剰な規制が新規プロジェクトの成長余地を狭めるリスクもある。
特に、投機色の強いトークンと実需を伴う主要暗号資産を峻別する仕組みが整うかどうかが、制度の実効性を左右するとみられる。
長期的には、制度が安定すれば日本の暗号資産市場はより成熟した投資環境へと移行し、国際的な評価を高める展開も考えられる。
ただし、そのためには投資家保護と市場育成のバランスをどう取るかが最大の課題であり、規制当局が柔軟かつ段階的に対応できるかどうかが鍵を握るだろう。
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