NVIDIA、中国向け「H20」生産停止を要請 輸出再開目前に供給網揺らぐ

2025年8月21日の米報道によれば、半導体大手NVIDIAが中国向けAI半導体「H20」に関連する生産を停止するよう調達先に要請した。
米政府の規制緩和を受け輸出再開を準備していたが、中国当局の排除姿勢により供給網が揺らいでいる。
NVIDIA、中国市場向けH20の生産を複数企業に停止要請
米ネットメディア「ジ・インフォメーション」は、NVIDIAが半導体の後工程大手アムコー・テクノロジーや韓国サムスン電子に対し、中国向けAI半導体「H20」に関連する生産を止めるよう求めたと報じた。
アムコーは組み立て工程を、サムスンは広帯域メモリー(HBM)の生産を担当していた。
さらに、22日にはロイター通信がNVIDIAから台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業にも同様の要請があったと伝えた。
鴻海は同社のサーバーや部品を請け負っており、影響は複数のサプライチェーンに及んでいる。
NVIDIAは日本経済新聞の取材に対し、「常にサプライチェーン(供給網)を管理している」と述べ、生産停止要請の有無については言及を避けたという。だが、米政府による輸出許可発行後に整備した再開準備が頓挫する形となり、状況は一層不透明になっている。
背景には米中双方の思惑が交錯する。
トランプ政権は今年4月にH20を対中輸出規制対象に指定し、7月に方針を転換して条件付きで再開を認めた。
しかし、中国当局は7月にセキュリティー上の懸念を指摘し、NVIDIAに説明を求めていた。
ブルームバーグによれば、国内企業に同社製半導体の利用を控えるよう通達しているという。
ジェンスン・ファンCEOは現地時間22日、台湾で「(H20に)バックドアは存在しない」と語り、中国側との協議を進めていると述べたという。
米中対立の長期化で揺れる半導体産業 NVIDIAの市場戦略転換は必至
今回のNVIDIAによる中国向けAI半導体「H20」の生産停止要請は、米中対立が半導体供給網に与える影響を象徴する出来事といえるだろう。
今後を展望すると、NVIDIAは中国依存を減らし、新興市場の開拓に舵を切らざるを得なくなる可能性が高い。
短期的には収益への打撃が避けられないものの、中長期的にはインドや東南アジア、中東などの市場を成長の柱とする動きが強まるとみられる。
供給網の多極化を進めれば、地政学的圧力への耐性が高まり、リスク分散の効果が期待できるだろう。
ただし、米中対立が長期化すれば、半導体産業全体は不透明感を抱え続けると考えられる。
特に中国当局が安全保障を理由にNVIDIA製品の利用を制限するなら、競合企業や国産半導体への需要がシフトするシナリオも考えられる。
結果として、NVIDIAは技術優位を維持しながらも、供給網の柔軟性と新市場での収益基盤をどこまで確保できるかが試されることになりそうだ。
米中双方の規制や政治的駆け引きが続く限り、半導体業界は「安全保障」と「収益性」の間で揺れ動く状況が続く可能性が高い。