2026年5月23日、日本で生成AIによる音声模倣を巡る初の訴訟をメディアが報じた。声優の津田健次郎さんが、自身の声を無断で再現した動画の削除を求め、TikTok運営会社を東京地裁に提訴した。AI時代における「声の権利」の扱いが問われている。
AI音声模倣、初の訴訟が浮上
今回の訴訟は、生成AIによる音声模倣が著名人の権利を侵害するかを巡る国内初のケースとみられる。原告は、「呪術廻戦」の七海建人役などで知られる津田健次郎さんであり、2025年11月に提訴していたことが判明した。すでに争点整理手続きが複数回行われており、今夏にも初の口頭弁論が開かれる見通しだ。
訴状によれば、問題となっているのは2024年7月以降に投稿された少なくとも188本の動画である。都市伝説や雑学をテーマとしたナレーションに、津田さんの特徴である低く艶のある声質を模した音声が使用されているとされる。投稿者は匿名だが、外部サイト上では生成AIを用いた音声であることや、月50万〜75万円規模の収益を得ている旨が示されていた。
原告側は、これらの動画が津田さん本人の声であるかのように視聴者に誤認させ、集客や収益に結びついていると主張。不正競争防止法およびパブリシティー権(※)に基づき、動画削除を求めている。一方、被告側は音声が「普遍的な男性の声」であり、特定の個人を想起させるものではないと反論する。視聴者の関心はコンテンツ内容に向けられており、権利侵害には当たらないとの立場を示している。
生成AIの高度化により、特定人物に類似した音声を容易に生成できる環境が整いつつある中で、「似ている」こと自体をどこまで規制できるのかが争点として浮上している。
※パブリシティー権:著名人の氏名や肖像、声などが持つ経済的価値を本人が独占的に利用できる権利。無断で商業利用された場合、差止めや損害賠償の対象となる。
声の権利は拡張か、AI活用は制約か
今回の訴訟は、AI時代における権利保護と技術活用のバランスを問う試金石となる可能性がある。仮に原告側の主張が認められれば、声質そのものにも一定の権利が及ぶとの解釈が強まり、声優やナレーターにとっては保護強化につながる可能性がある。一方で、無断利用の抑止が進むことで、業界全体の健全性向上にも寄与する余地がある。
ただし、一定のデメリットも想定される。音声の類似性を厳格に規制すれば、生成AIを活用したコンテンツ制作の自由度は大きく制限される可能性がある。特に、誰にも似ていない音声の定義は曖昧であり、開発側やクリエイターにとっては実務上の不確実性が増すと考えられる。過度な規制はイノベーションの萎縮を招く懸念も否定できない。
今後の焦点は、「誤認性」の判断基準と透明性の確保にあるとみられる。AI生成音声であることの明示や、学習データの出所管理といった仕組みが制度化される可能性がある。また、声をライセンスとして提供する「ボイスIP」市場の形成も現実味を帯びつつある。技術と権利の線引きが明確になれば、新たなビジネス機会が生まれる可能性がある一方、ルール整備の遅れは混乱を長期化させる要因にもなりうる。
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