奈良市は、AI専門部署「AI活用推進課」の設置初年度における実績を公表した。業務効率化と市民サービス向上を両立し、行政運営の変革を進めた点が特徴である。
奈良市AI活用初年度の具体成果
奈良市は2025年4月、全国に先駆けて「AI活用推進課」を設置し、全庁的なAI導入を進めてきた。設置から1年間で業務効率化と市民対応の高度化に向けた複数施策を展開している。
2026年4月13日に公表された報告では、その具体的成果が数値とともに示された。
生成AIの活用では、文章作成や要約、議事録作成などを中心に効率化が進み、2025年度下半期だけで約17,200時間の業務削減を実現した。利用者は572名に達し、約10億文字規模の活用実績となる。
加えて、管理職研修後には課長級職員の利用率が38%から74%へと上昇し、組織全体での活用が広がった。
市民向けサービスでも変化が見られる。AIチャットボットは24時間対応を実現し、年間換算で約22,000人が利用、約46,000件の問い合わせに対応した。
さらに、次世代クラウド電話「Zoom Phone」を全庁に導入し、通話要約や業務継続性を確保しつつ、入札プロセスの工夫により年間約5,000万円のコスト削減を達成している。
今後の計画としては、LINE上でのAI相談支援の実装や児童相談業務におけるタブレット活用、AIによる児童相談所シフト自動作成などが挙げられている。個人情報を扱うためのローカル環境とクラウドを組み合わせた新インフラの検証も実施中だ。
なお、同課は2026年度から財政課の行革機能を統合し「AI・行革推進課」として再編されている。
行政AI活用の可能性と課題
今回の取り組みは、業務効率化と人材活用の両面で一定の効果が期待できる。
単純作業をAIに任せることで、職員が対話や現場対応に集中できる環境が整えば、市民サービスの質向上につながる可能性がある。特に相談業務への応用は、心理的負担を軽減する手段となり得る。
一方で、AI活用の拡大には運用面の課題も残りそうだ。利用率の向上が進むほど、出力内容の正確性や責任範囲の整理が求められるほか、業務依存が進んだ場合のリスク管理も重要になるだろう。
インフラ面では、クラウドとローカルを併用する構想が柔軟性の向上に寄与するとみられるが、運用の複雑化を招く懸念も否定できない。セキュリティと利便性の両立がどこまで実現できるかが今後の焦点になると考えられる。
将来的には、AIを前提とした行政サービス設計への転換が進む可能性がある。
自治体ごとの差異が拡大する中で、奈良市のモデルが他地域へ波及するかは不透明だが、行政におけるAI活用の一つの指標として注視されることになるだろう。
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