2026年3月11日、東京工科大学は解剖学者の養老孟司氏と、その思想を学習したAIデジタルヒューマン「AI養老先生」を客員教授に任命した。人間とAIが並列で教育に関与する新たな大学モデルとして注目される。
養老孟司氏とAI養老先生が同時就任
東京工科大学は、養老孟司氏とAIデジタルヒューマン「AI養老先生」を客員教授として迎え入れた。AIが大学教員として正式に位置づけられる事例は国内でも先進的であり、教育分野におけるAI活用の新たな段階に入ったことを示す動きである。
養老氏は東京大学医学部の解剖学教授を務め、『バカの壁』などで知られる研究者・思想家である。一方のAI養老先生は、同氏の著書や発言をもとにパーソナリティを学習し、さらに話し方や身振りといった身体性も再現したAIアバター(※)として構築された。単なるテキスト応答にとどまらず、人格的な対話を可能とする点が特徴とされる。
このAIは、メタバース推進協議会、東京大学、NTTデータの共同プロジェクトとして開発され、2025年の大阪・関西万博で初めて一般公開された。教育・研究領域への応用を見据えた開発が進められてきた経緯がある。
「AI University」を掲げる同大学では、著名研究者の知見を再現したAIを教員として活用することで、教育手法の高度化や新たな研究テーマの創出につなげる方針である。具体的な取り組み内容は今後順次発表される見込みだ。
※AIアバター:人間の外見や声、思考パターンなどを再現した人工知能ベースのデジタル存在。対話や振る舞いを通じて実在の人物に近い体験を提供する技術。
AI教員がもたらす利点とリスク
AI養老先生の導入は、教育の柔軟性を大きく高める可能性がある。時間や場所に制約されず、著名研究者の思考様式に基づいた対話型学習を提供できる点は、従来の講義中心モデルを補完する要素となる。また、学生ごとに最適化された応答が可能となれば、理解度に応じた個別指導の実現にもつながると考えられる。
一方で、AIが再現する人格の正確性や、発言の責任所在といった課題は避けて通れない。特定の思想を学習したAIが教育に影響を与えることは、知の多様性を損なうリスクもはらむ。さらに、AIによる教育が拡大すれば、人間教員の役割や評価基準の再定義も求められる局面が訪れるだろう。
将来的には、AI教員が複数の分野で活用され、知識継承の手段として定着する可能性がある。特に高齢研究者や故人の知見を保存・活用する技術としての価値は高い。一方で、倫理やガバナンスの整備が不十分なまま普及が進めば、教育の信頼性そのものが揺らぐ懸念も残る。
人間とAIが共に教育に関わる時代において、大学の役割や学びの本質がどのように変化するかが今後の焦点となる。
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