Microsoft、がん研究の精密解析を変革するAI「GigaTIME」発表

2025年12月9日、米Microsoftはがん研究を支援する新たなAIツール「GigaTIME」を発表した。
従来の高コストな解析を効率化し、腫瘍周辺環境をデジタル地図として解析できる技術で、研究効率と治療精度の飛躍的向上が期待されている。
多層データ解析で腫瘍環境を可視化
Microsoft Researchは、がんの進行や治療反応をより正確に理解するためのAIツール「GigaTIME(Geospatial Imaging of Tumor MicroEnvironment)」を発表した。
この技術は、従来高額で時間を要した実験をデジタル解析の大部分を置き換えるもので、病理スライド画像をAIが読み取り、免疫細胞と腫瘍細胞の相互作用を詳細なデジタルマップとして再現する。
同ツールの基盤には、複数的なデータを統合的に処理できるマルチモーダルAIが採用されている。
これにより、腫瘍の微小環境(※)をかつてないスケールで再構築し、がんの進行過程を可視化することが可能となった。
GigaTIMEは数十種類のタンパク質活性を数秒でシミュレーションでき、数万通りの腫瘍反応を同時に分析できるようにする。
Microsoftは「従来数日と数千ドルを要した解析が瞬時に実現する」とアピールしている。
このプロジェクトは、米Providence医療機関およびワシントン大学との共同研究であり、51病院・1000超のクリニックから収集した1万4000人以上のデータをもとに学習されている。
ツールはMicrosoft Foundry LabsおよびHugging Faceでオープンソースとして公開され、世界中の研究者が利用可能だ。
※腫瘍微小環境:がん細胞の周囲に存在する免疫細胞・血管・間質などを含む領域。腫瘍の成長や治療抵抗性に大きく関与するため、研究の重要対象とされている。
治療最適化への応用も視野 医療AIの信頼性が問われる
GigaTIMEは、腫瘍環境の理解を深めるだけでなく、患者ごとの治療方針決定にも新たな可能性を開くとみられる。
解析結果から、どの患者が特定の薬剤に反応しやすいか、また腫瘍が治療抵抗性を示す要因を特定できるため、個別化医療の精度向上が期待されている。
また、モデルがオープンソースで公開されていることは、広く医療界の助けになるだろう。
一方で、AIによる医療解析にはリスクも存在する。解析の精度は学習データの質や多様性に依存するため、特定の人種・環境に偏ったデータセットが誤判定を引き起こす懸念も存在する。
また、臨床現場での導入には、倫理面や説明責任の確立が不可欠である。
それでも、がんという対処困難な病気に対して、「GigaTIME」が効率化のために果たす役割は大きなものが期待できる。
GigaTIMEがAI主導のがん研究における新たな標準技術となるか、今後の実証と社会的受容が鍵を握ると言える。
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