米地裁がオープンAIに2000万件の履歴提出命令 AI開発と著作権訴訟の緊張が高まる

2025年12月3日、米ニューヨーク連邦地裁が、オープンAIに対しチャットGPTの匿名チャット履歴2000万件の提出を命じたとロイターが報じた。ニューヨーク・タイムズ(NYT)らの著作権侵害訴訟で、生成AIが報道機関の著作物を複製した可能性を検証する判断である。
NYT訴訟で履歴2000万件の提出命令、プライバシー懸念は「緩和可能」
米連邦地裁は、NYTが2023年に提起した著作権侵害訴訟に関連し、オープンAIへ2000万件のチャットGPT履歴を提出するよう命じた。対象は匿名化されたユーザー対話データで、同社モデルが著作物を複製したかどうかを確認するため不可欠と判断された。
決定文では、履歴提供による利用者のプライバシー侵害のリスクは「徹底的な匿名化」や補完措置によって合理的に抑えられると結論づけた。オープンAIは個人情報の露呈につながると反論していたが、地裁はこれを退けた形である。
この訴訟は、NYTのみならず複数の報道機関がオープンAIやマイクロソフト、メタを相手取り起こした一連の著作権紛争の一部であり、生成AI開発におけるデータ利用の正当性が改めて問われている。
今回、訴訟の焦点がユーザー生成のチャット履歴(※)にまで及んだことにより、AI企業のデータ管理体制が今後も精査される可能性がありそうだ。
※チャット履歴:AIとの対話内容を記録したデータ。分析用に個人情報を除去・匿名化する手法が一般的。
透明性要求の強まりが市場に波及 AI企業の競争力と権利保護のせめぎ合い
今回の判断は、AI企業に対し「データ利用の透明性」と「権利者保護」の双方をより高い水準で求める流れを加速させるだろう。
著作権侵害の有無を精密に検証できる環境が整備されれば、報道機関やクリエイターが抱く不信感の緩和につながり、AIと既存メディアの関係修復に一定の効果をもたらす可能性がある。
企業側にとっても、適法データを使った開発プロセスを示すことで、モデルの信頼性向上や企業価値の安定化に寄与する利点があると言える。
一方で、訴訟ごとに大量データの開示を求められれば、企業秘密や研究プロセスが部分的に露呈するリスクは避けられず、開発スピードが削がれる懸念がある。また、匿名化技術の水準が常に問われるため、プライバシー保護のコストも増大するだろう。
利用者が「会話内容が裁判に使われる可能性がある」と受け止めれば、生成AIの利用行動に影響が生じる可能性も否定できない。
今後は、司法判断を契機にAI業界全体でデータガバナンス基準が再設計される公算が大きい。適法利用を担保しつつ企業の技術競争力を守るバランスが問われ、モデル開発の透明性が投資判断や企業評価の新たな指標として浮上する展開も考えられる。
今回の履歴提出命令は、その基準づくりが避けられない段階に入ったことを象徴する事例となるかもしれない。
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