富士通、企業横断のサプライチェーン最適化へ　マルチAIエージェント連携技術を開発し実証開始

富士通株式会社は企業間で共有されない機密情報を保持したまま複数AIエージェントが協調し、サプライチェーン全体を最適化するマルチAIエージェント連携技術を発表した。
東京科学大学およびロート製薬とともに、2026年1月から実証を開始する。

富士通、複数AIが企業横断で連携する新技術を発表

2025年12月1日、富士通は、異なる企業が保有するAIエージェント同士が連携し、サプライチェーン全体を最適化するマルチAIエージェント連携技術を開発したと公表した。
本技術は、不完全情報下でのAIエージェント最適制御と、機密情報を保護したまま連携を可能にするセキュアエージェントゲートウェイの2つで構成される。

最適制御の仕組みでは、各AIエージェントが提案と応答のやり取りから相手企業の条件を推定し、詳細情報を共有せずに全体の最適化に必要な判断を行えるよう設計されている。
一方、セキュアエージェントゲートウェイは分散型AI学習やガードレール技術（※）を用い、企業間の機密情報が推測されない形でAI同士の知識共有と通信を実現する。

富士通は、東京科学大学とロート製薬とともに仮想サプライチェーンで検証を行い、物流ルートやスケジュールの最適化によって運搬コストを最大30%削減できる可能性を確認したと説明している。
実証は2026年1月から2027年3月まで、ロート製薬の実サプライチェーンを用いて行われる。

今後は、産業競争力懇談会（COCN）の活動に参画し、企業をまたぐAIエージェント連携基盤の普及に向けて取り組む方針が示された。

※ガードレール技術：AI間の不正質問や情報推測を防ぐための制御技術。

AI連携が拓く最適化効果とリスク　普及の鍵は信頼と運用設計

今回の技術開発は、企業ごとに独立して構築されるAIエージェントを横断的に連携させる基盤として大きな可能性を持つ。
機密情報を保持したまま相互調整が可能になる点は、サプライチェーンの全体最適化を進める上で新たな選択肢を生み、需要急変や供給障害が発生した際の対応力向上にも寄与すると考えられる。

一方で、AI同士が高頻度で調整を行う環境では、情報推測や不正操作といったリスクも無視できない。
特に複数ベンダーが関わるマルチエージェント環境では、挙動の一貫性やガバナンスをどう担保するかが普及段階での課題となるだろう。
ガードレール技術の精度や各AIの信頼性評価など、運用設計の負荷が増加する懸念も残る。

とはいえ、企業間の調整作業をAIが担うことで、人的コストの削減や意思決定の迅速化を期待できる点は大きなメリットである。
製造業を中心に複雑化するサプライチェーンでは、手動での最適化には限界があるため、AIエージェント連携が新たな標準技術となる可能性もある。

富士通が実証を通じて得る知見は、企業横断で安全にAIを連携させる仕組みの確立に向けて重要なステップとなるだろう。
今後、実運用に近い環境での評価が進むことで、産業全体での導入に向けた具体的な指針がより明確になっていくとみられる。

富士通株式会社 プレスリリース

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