キヤノンITSがVLMを異常監視システムに連携 生成AIで柔軟設定に対応

2025年11月12日、キヤノンITソリューションズ株式会社は、異常監視システム「ANOMALY WATCHER」と視覚言語モデル(VLM)の連携による異常検知機能を提供開始すると発表した。
製造現場やプラント設備の監視業務を自動化し、省力化と精度向上を狙う新たな検知手法を提供する。
生成AIとVLM連携で異常監視の自動化を強化
キヤノンITSは、製造現場やプラントにおける発煙、発火、液漏れといった設備の異常を検知する「ANOMALY WATCHER」において、VLM(※)との連携による新機能の提供を開始した。
人材不足から監視員の確保が難しい中で、カメラ映像の分析をAIが担う体制が求められており、今回の機能追加はその課題に対応するものになる。
VLMは、画像や動画、テキストを横断的に理解できる特性を持つ。「ANOMALY WATCHER」のカスタム検知機能を利用しVLMと連携することで、異常状態を自然言語で定義できる。
従来は大量の画像データを使ったモデル学習が必要であったが、「人が倒れている」「液体がこぼれている」など、現場が言語でルールを入力するだけで検知設定が行える。
これにより、現場主導の柔軟な運用が可能となり、管理工数の削減が期待できる。
さらに、VLMサーバーをオンプレミス環境で運用できるようにしたことで、機密データを外部に出さずにAI分析を行えるようになった。
製造業やプラントなどクラウド接続に制約がある領域でも導入しやすい設計となっている。
加えて、従来の画像比較方式にVLMを加えることで、定量的な差分検知と定性的な異常判断の双方をカバーする多層的な検知が可能になる。
※VLM(視覚言語モデル):画像・映像とテキストを同時に理解し、言語による指示で画像内容を解釈・分類できるAIモデルの総称。
現場運用の最適化とAI依存の課題が並行する
生成AIとVLMの連携は、これまで属人的だった監視業務の標準化と高速化を大きく進める可能性がある。
従来の画像比較だけでは捉えきれなかった「言語で表現できる異常状態」を検知対象に含められるため、現場ごとの暗黙知をデジタル化できる点は非常に大きなメリットとなる。
特に、多品種生産や設備更新が頻繁に発生する工場においては、監視ルールを現場の負担なく更新し続けられる柔軟性が強みになると考えられる。
一方で、検知精度はプロンプト設計やカメラ環境に依存するため、誤検知・見逃しのリスクをゼロにはできない。
異常状態の定義が曖昧なまま運用が開始されると、通知過多や判断遅延につながり、かえって現場の負荷を増やす懸念もある。
また、オンプレミス構築はセキュリティの強度を高める一方で、企業側のインフラ整備コストが増すというトレードオフも生じる。
将来的には、VLMによる「言語+映像」の理解を起点に、設備そのものの状態推定や、異常の前兆検知へ領域が広がる可能性がある。
こうした高次の分析が一般化すれば、従来の“監視”という枠を超え、設備保全の高度な自動化に道が開けるだろう。
ただし、AI依存が進むほど、モデルの透明性や説明可能性への要求も強まり、企業にはガバナンスと技術力の両面が問われるフェーズに入るといえる。
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