東京科学大ら、AIで心電図から糖尿病予備群を判定 血液検査不要の技術

2025年11月11日、東京科学大学などの研究チームは、健康診断で測定する心電図データのみから糖尿病予備群を識別できる人工知能(AI)モデルを開発したと発表した。
血液検査を受けずにリスクを把握できる技術として、医療現場やヘルスケア分野での活用が期待される。
1万6000人の心電図からAIが判定 糖尿病リスクを約85%の精度で識別
東京科学大学の山田哲也教授らの研究チームは、2022年に東京都内で実施された健診データをもとに、心電図波形から糖尿病リスクを予測するAIモデルを構築した。
研究対象は約1万6000人で、血糖値などが基準を超える「糖尿病予備群・糖尿病群」と、正常な「血糖正常群」に分類。
AIに心電図データを学習させ、糖尿病発症前に起こる心筋や自律神経の微細な変化を検出させた。
判定結果は、糖尿病リスクが高い人を約85%の精度で特定し、正常群の識別精度も約70%に達した。
さらに、腕時計型ウエアラブル端末で取得した心電図データでも、同等の結果が確認されたという。
糖尿病は発症初期に自覚症状が少なく、血液検査を行わなければリスクを把握しにくい疾患である。
今回の成果により、健診や日常的な健康管理の場で、血液検査を行わずに早期の段階で発症リスクを確認できる可能性が示された。
AIによる非侵襲検査が医療を変える可能性 課題は臨床応用とデータ精度
心電図データのみで糖尿病予備群を判定するAI技術の意義は極めて大きい。
最大の利点は、非侵襲的かつ迅速にリスクを可視化できる点にある。
血液検査という物理的・心理的負担を省きながら、日常的な健康モニタリングを実現できれば、検査忌避層の受診率向上にもつながるだろう。
また、ウエアラブル端末で同等の精度が得られた点は、医療機関だけでなく在宅や企業の健康管理にも応用可能であり、予防医療の裾野を広げる突破口となり得る。
一方で、課題も明確だ。AIが解析する心電図データは、取得環境や個体差に左右されやすく、誤判定リスクを完全に排除することは難しい。
さらに、アルゴリズムの透明性や責任の所在をどう担保するかという倫理的・制度的整備も不可欠である。
AIが診断補助を超えて「判断」に近づくほど、医療従事者との役割分担を再定義する必要が生じる。
今後は、大規模臨床データによる検証を重ねつつ、他の生活習慣病への展開も進むだろう。
もしこの技術が社会実装されれば、健康管理は「検査を受けに行く」行為から「日常の中でデータを積み上げる」行為へと変わる。
AI医療が進むほど、医療の中心は“病気を見つける”から“病気を起こさない”へと移行していくと考えられる。
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