ロンドン金融業界で求人回復 AIとフィンテックが主役に

2025年10月10日、モーガン・マッキンリーが公表した報告書によると、ロンドンの金融業界における求人件数が前年同期比で9%増加した。AI(人工知能)やフィンテック(※)分野の需要拡大が背景にあり、停滞していた採用活動が再び活発化している。
AI・フィンテック分野で採用再燃 自動化進む中で構造変化も
同報告書によると、2025年7~9月期のロンドン金融業界の求人件数は前年同期比で9%増加した。
年初には関税を巡る不透明感から採用が急減したものの、企業が延期していた採用計画を再開したことで回復が鮮明になった。
特にAIやフィンテック関連の職種が急増しており、今年のフィンテック分野の求人件数は6425件と、すでに昨年1年間の合計を上回った。
背景には、AIプラットフォームの商用化を巡る競争がある。一方で、業務の自動化が進んでいるため、新卒や初級職の採用は鈍化している。
ベルファストやグラスゴーなど地方都市に業務を移管する動きも進んでいる。ロンドンではAI戦略などの上級職の採用が集中している。
※フィンテック(Fintech):金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語。AIやブロックチェーンなどの技術を活用し、決済や資産運用などの金融サービスを効率化・高度化する分野。
専門職重視の流れが加速 AI都市ロンドンの競争力に試練の兆し
AIとフィンテックの拡大は、ロンドンに新たな成長機会をもたらしている。一方で、雇用の質にも大きな変化が生じている。
AI戦略やコーポレート・ファイナンスなど専門性の高い上級職が集中することで、都市の生産性向上や国際的競争力の強化が見込まれる。特にAI技術を活用できる人材は、今後の金融ビジネスにおいて重要な役割を果たすことが想定される。
しかしその裏では、事務・運用系職種の減少やジュニア層の雇用減退といった懸念もある。自動化による効率化が進むほど、未経験者の参入余地は狭まり、キャリア形成の初期段階にある人材の流動性が低下する可能性がある。
さらに、11月26日に予定される英国の予算案発表を前に、増税懸念が企業の採用戦略を慎重にさせるおそれもある。専門人材への依存度が高まる中で、税制や規制が投資抑制につながれば、回復基調は一時的なものにとどまることも考えられる。
AIと金融の融合が進むロンドンは、いま「選ばれる都市」としての競争力が問われている。
テクノロジーを軸に持続的な雇用創出が実現できるかどうかが、英国金融産業の将来を左右する重要な要素となるだろう。
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