「ポケモンスリープ」で判明した睡眠リズムの乱れ 日本の生産性に年間1兆円の損失

2025年7月11日、ポケモンと筑波大学は、スマートフォンアプリ「ポケモンスリープ」の国内ユーザー約8万人の睡眠データを分析した調査結果を発表した。
不規則な睡眠リズムによる生産性の低下が、国内全体で年間約1兆円の経済損失につながっている可能性があるという。
約8万人の睡眠データから推計 国内損失は年間1兆円規模に
ポケモンと筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)は、「ポケモンスリープ」の国内ユーザー7万9048人を対象に、7日以上の睡眠記録とアンケート回答を用いて睡眠に関する調査を行った。記録総数は210万件以上にのぼる。
調査では、入眠・起床時刻や中途覚醒の頻度などに基づき、ユーザーを5つの群に分類。
「健康的な睡眠」「長時間睡眠」「中途覚醒が多い」「寝付きが悪く中途覚醒も多い」そして平日と休日で睡眠リズムが大きく異なる「ソーシャルジェットラグ(※)」の5分類で傾向を把握した。
その結果、ソーシャルジェットラグ群に属するユーザーは、日中の集中力や作業効率の指標が最も低く、生産性の損失は年間13万6000円相当にのぼると推計された。
この群に該当する割合は全体の16%であり、同様の傾向が日本全体に見られると仮定した場合、経済損失は約1兆円に達するという。
また、同群は眠気や不眠の自覚スコアも最も悪く、睡眠のリズムと健康指標との関連が示された。損失額の推計には、令和5年の平均年収(461万円)や給与所得者数(4494万人)といった公的統計が用いられている。
「ポケモンスリープ」監修者の柳沢正史教授(筑波大学)は「休日に寝だめする場合も、前日は早めに寝て、入眠と起床の時間帯を大きくずらさないことが望ましい」と指摘している。
※ソーシャルジェットラグ:平日と休日で就寝・起床時間が大きく異なることにより、体内時計にズレが生じる状態。時差ボケに似た症状が起き、日中の集中力や代謝などに悪影響を与えるとされる。
企業と社会に広がる「睡眠リズム」への意識改革
今回の調査結果は、個人の生活習慣が経済全体に波及する影響の大きさを改めて示したものだ。
特に、休日と平日で睡眠リズムが乖離する「ソーシャルジェットラグ」が、単なる個人の体調不良にとどまらず、生産性低下という明確な経済損失につながる恐れがあることが示された点は、今後の企業経営や政策立案に新たな視点をもたらす可能性がある。
企業側では、従業員の生産性向上と健康管理の両面から、睡眠リズムを考慮した勤務制度や支援施策が求められるようになるだろう。たとえば、柔軟な勤務時間やリモートワーク制度の拡充は、一定の生活リズムを保つ手段として注目できる。
また、健康経営の一環として、睡眠改善アプリの導入や啓発活動が進むことも十分に想定される。
一方、個人レベルでも「長く寝ればよい」ではなく、「規則正しく寝ることの重要性」が浸透し始めることで、生活習慣の見直しが促進されると見られる。
テクノロジーと睡眠科学の融合が進む中、社会全体で“リズム”の価値を再認識する動きが拡大していく可能性は高いだろう。
今後は、健康と経済の接点として、睡眠が政策・ビジネス両面でより重要なテーマとなりそうだ。