電源開発と日立、AI専用データセンター構築で連携 重要インフラ向けに安全性と環境性能の両立目指す

2025年7月7日、電源開発株式会社(Jパワー)と株式会社日立製作所は、重要インフラ事業者向けのAI専用データセンターの構築に向けた共同検討の覚書を締結したと発表した。再生可能エネルギーや高度な制御運用技術を活用し、信頼性と安全性に優れたAI基盤の整備を目指す。
カーボンニュートラル×AI×OTでインフラ基盤を刷新へ
Jパワーと日立が連携し、社会インフラ向けのAI専用データセンター構築を本格的に検討する。両社は覚書を締結し、水力・風力といったカーボンニュートラル電源と、制御運用技術(OT)を活用する次世代施設の共同構想に乗り出すという。
背景には、機密性の高い膨大なデータを扱う社会インフラ事業者から、安全で信頼性の高いAIデータセンターへのニーズが急速に高まっている状況がある。
これに応える形で、Jパワーは土地・建物・電力および技術検証に必要なデータを提供し、日立はサーバーやストレージ、AI技術を担う。
構想では、AIの学習と推論を担う環境を地方と都市に分散配置し、再生可能エネルギーやトランジション火力(※1)による電力供給の最適化を図るほか、センター間を結ぶ大容量・低遅延・省電力のデータ伝送技術を活用して、全体のエネルギー効率向上を目指す。
さらに、プライベートクラウドによる構築でセキュリティ要件の厳しいOTデータにも対応する。
こうした地方分散化と再エネ活用の取り組みは、政府が掲げる「ワット・ビット連携(※2)」政策とも連動し、GX(グリーン変革)(※3)とDX(デジタル変革)の同時実現を図る国家戦略にも整合する内容となっている。
※1 トランジション火力:既存の火力発電をベースに、CO₂排出を段階的に削減する移行型エネルギー供給手法。脱炭素化と安定供給を両立する中間的選択肢として注目されている。
※2 ワット・ビット連携:電力(ワット)とデジタル(ビット)の連携によって、再エネ活用や地方分散型のデジタルインフラ整備を推進する政策。経済産業省が主導。
※3 GX(グリーン変革):温室効果ガス排出の削減と経済成長の両立を目指す政策。再エネ導入や産業構造転換などを通じ、持続可能な社会の実現を図る。
分散型AIインフラがもたらす変化 課題と展望
両社の構想は、エネルギー多消費型のAIデータセンターを持続可能に運営することを念頭に置いている。発電の知見を有するJパワーと、OTとAIの融合に強みを持つ日立の組み合わせは、エネルギーとデジタルの同時変革を進めるうえで極めて戦略的だ。
また、AIによる発電所の運転支援や運用最適化など、エネルギー分野そのものにAI技術を活用する展開も想定されている。こうした仕組みが実現すれば、インフラの安定性と環境性能が同時に向上し、電力・交通・防災など多岐にわたる領域でのAI実装を後押しすることが期待される。
今後、この構想は官民連携によるGX・DX推進モデルとして注目される可能性が高いだろう。中長期的には、エネルギー分野におけるAIの利活用が進展し、需給予測や異常検知など運転支援の高度化が現場レベルで実装されていくと考えられる。
ただし、実際のサービスインまでには数年単位の技術検証と調整が必要であり、初期段階では限られたユースケースに絞った展開になると見られる。
国のGX推進政策との整合を図りながら、実証成果の社会実装へつなげるフェーズに移行できるかが成否の鍵を握りそうだ。
分散型AIインフラという構想は持続可能性の観点で有望ではあるが、技術的・制度的・経済的ハードルを一つひとつ乗り越える地道な取り組みが求められるだろう。