ルネサス、GaNでAIDC電源市場に本格参入 米技術買収で高効率・低価格を実現

2025年7月1日、ルネサスエレクトロニクスはAIデータセンター(AIDC)向けの電源市場に向け、窒化ガリウム(GaN)を用いた新型パワー半導体を発表した。2024年に買収した米トランスフォームの技術を活用し、高効率かつ低コストを実現。電動車不振での戦略見直しを経て、成長分野への展開を本格化させる。
GaN新製品でAIDCの電力効率を大幅改善
ルネサスが投入した新型GaNパワー半導体は、従来品に比べてオン抵抗を14%低減し、チップ面積も同程度縮小した。これにより発熱量が抑えられ、装置の小型化や冷却効率の向上が可能となる。価格も約10%引き下げており、コストパフォーマンス面でも競争力を強めた。
この新製品は、2024年に買収した米トランスフォームのGaN技術を活用して開発された。GaNは高速スイッチングと高耐圧を兼ね備え、高効率の電力変換に適する材料として注目されてきた。
これまで同社は主に電気自動車(EV)や産業機器向けに展開してきたが、EV市場の成長鈍化や中国勢の台頭を受け、事業の軸足を見直していた。
同社は今後、サンケン電気系の米ポーラーセミコンダクターと連携し、現在の150ミリメートルウエハーから200ミリメートルへの移行を進める。
さらに将来的には、山梨県の甲府工場において300ミリメートルGaNウエハーの製造体制を構築する構想もある。
市場では独インフィニオンテクノロジーズが先行している。これに対してルネサスは、GaNデバイス単体ではなく、ドライバーICやコントローラーICなどを組み合わせたソリューションとして提供することで差別化を図る戦略を取る。
高効率化ニーズに商機 競争激化も視野に
AI処理の需要増大により、AIDCでは消費電力の抑制が急務となっている。高密度サーバーを稼働させながらも電力効率を最大化することが、運用コストとサステナビリティ両面で企業に課された課題だ。
GaNパワー半導体はこの要件に適合する技術として、今後の標準デバイスになりうる。
こうしたなか、ルネサスが打ち出す「ソリューション型提供」は、先行企業との差別化要素として機能する可能性がある。個別部品ではなく、相互に最適化された一括提供による開発期間の短縮やトータル効率の向上は、エンドユーザーにとっての訴求力が高い。
一方で、GaN市場は今後さらなる価格競争と技術革新の加速が予想される。ウエハーの大型化によるスケールメリットはコスト面で有利に働くが、供給能力の確保や製品の安定性も問われる。特に量産規模の大きな競合が参入を強める中で、ルネサスが持続的に差別化を維持できるかは注視される。
AI基盤インフラの長期的な需要増を背景に、ルネサスがこの分野で確固たる地位を築けるかどうかは、今後の製品展開と供給能力にかかっていると言える。