シンガポール当局、仮想通貨企業の国外提供に規制明確化 新ルールで混乱収拾へ

2025年6月6日、シンガポール金融管理局(MAS)は、暗号資産事業者に対する新たな規制の適用範囲を明確化した。
国外にサービスを提供する企業に対し、7月以降のライセンス取得義務が通知されていたが、対象範囲の不明瞭さが業界に混乱を招いていた。
国外のみに提供する仮想通貨企業にライセンス義務
MASは、2025年5月に公表した新たなガイドラインについて、国外のみにサービスを提供する仮想通貨企業が対象であると明言した。
これにより、ライセンスを取得しない場合、同年7月1日以降は活動を停止しなければならなくなった。
シンガポール国内に顧客を持つ事業者については、すでに既存の規制下にあるため、新ルールによる追加の影響はないとしている。
また、こうした企業は国外の顧客にも継続してサービス提供が可能だとされた。
なお、ユーティリティトークンやガバナンストークンなど、決済機能を持たないトークンの提供事業者については、本ルールの適用外であると強調した。
今回の明確化は、仮想通貨取引所WazirXなど、国外市場に特化した事業を行う企業への影響を踏まえたものと見られる。
WazirXは近年ハッキング被害にも遭い、親会社ZettaiはブランドをZensuiへ変更し、拠点をパナマへ移す方針を示していた。
これと並行して、MASは個人投資家の保護にも力を入れている。
DPT(デジタル決済トークン)プロバイダーに対し、顧客資産の分別管理や毎日の残高照合、資産保管における第三者機関の利用義務などを課してきた。
加えて、プロモーション活動への規制も厳格化されている。
エアドロップ(※)、紹介ボーナス、サインアップ特典などの提供は禁止され、ユーザーへの事前リスクテストも義務化された。仮想通貨の取引に伴うリスクを明確に理解させる措置だ。
※エアドロップ:仮想通貨を無料配布するマーケティング手法。新規ユーザー獲得や認知度向上が目的とされるが、過剰なインセンティブ配布が問題視されている。
厳格化の背景にFTX破綻 個人保護とAML対策を重視
MASの新ルールは、2022年のFTX破綻を契機とした規制強化の一環である。
同局は特にマネーロンダリング対策に焦点を当てており、国外向けの無規制サービスは監視が困難と指摘しており、国外提供事業者へのライセンス義務化を進めていた。
今回規制の対象範囲が明文化されたことで、事業者の法的リスクが減少する点は前向きな材料と言えるだろう。
これまで曖昧だった国外提供企業への対応が明確になったことで、事業計画の再構築やリスクマネジメントが可能になり、仮想通貨業界の健全性向上に寄与する可能性が高い。
一方で、とりわけ国外向けにサービスを提供していた小規模事業者にとって、急なライセンス義務化は経営負担を増大させる要因となる。
コストや法的整備のハードルにより、撤退や事業縮小を余儀なくされるケースも出てくるだろう。
全体としては、規制の明確化と引き換えに、イノベーションのスピードや多様なトークンエコノミーの展開が抑制される可能性がある。
規制と成長の両立という課題に、各プレイヤーがどう向き合うかが問われる局面だ。