AI生成の虚偽判例引用に刑事罰の可能性 英高等法院が弁護士会に対応要請

2025年6月6日、英国の高等法院は、弁護士がAIで生成した架空の判例を訴訟で引用した行為について、法廷侮辱罪に該当し刑事訴追の可能性があると警告した。ロンドン発の時事通信が報じた。
AIで作成された架空判例、45件中18件が虚偽と判明
英国の高等法院は、AIが生成した虚偽の判例を用いて書面を提出した2件の訴訟について審理を実施した。中でも銀行を相手取った損害賠償請求訴訟では、提出された45件の判例引用のうち実に18件が架空であったことが確認された。
もう一件の訴訟でも、5件の存在しない判例が使用されていた。
これを受けて同法院は、「司法当局の指導だけではAIの悪用に対処するのは不十分だ」と指摘、弁護士会や関連団体に対し、制度的対策の早急な検討を求める判断を示した。
問題となったのは、生成AIを用いた法的文書作成の過程で、存在しない判例を事実のように引用してしまったケースである。
これが意図的か否かを問わず、司法の信頼を損ねる重大な行為とみなされたことが、今回の判断に繋がっている。
弁護士実務へのAI導入、技術利用とリスク管理の両立が重要
AIの法務分野への導入は、書類作成や調査業務の効率化という面で大きな利点がある一方で、事実確認の不備や誤引用によるリスクが顕在化している。
とりわけ、AIが架空情報を現実のように生成する「ハルシネーション(幻覚)問題」が深刻だ。
今後、英国をはじめとする各国の法曹界では、AI利用における倫理指針やチェック体制の整備が急務となるだろう。生成内容の検証責任をどこまで弁護士個人に課すべきかという論点についても、避けては通れないはずだ。
一方で、AIを完全に排除することは現実的な選択肢とは言えず、技術の進展を前提とした「誤情報のリスク管理」が鍵となる。
実務におけるAI利用が進むなか、今回の判例は世界中の法曹界に警鐘を鳴らすものとなった。
日本でもAI文書作成の活用が広がりつつある状況を踏まえれば、同様の事例が生じるリスクは否定できない。今後の制度改革次第では、日本の弁護士実務にも波及する可能性があるだろう。