米商務長官、中国へのAI関連技術流出を警戒 輸出規制の執行強化を議会で要請

2025年6月5日、ラトニック米商務長官は、中国への先端技術流出を防ぐため、輸出規制の執行体制を強化する方針を明らかにした。AIや航空技術など米国の知的優位性が脅かされる懸念を背景とした発言である。
AIなど先端技術の対中輸出監視強化を要請
米国のラトニック商務長官は6月5日、下院歳出小委員会の公聴会に出席し、中国による米国の先端技術の模倣と不正取得を警戒する姿勢を鮮明にした。特に人工知能(AI)や航空分野に関しては「中国はわれわれの技術を模倣しようとしている」と強調し、国家主導で知的優位を奪いにくる動きを懸念していると述べた。
ラトニック氏は、米商務省産業安全保障局(BIS)の予算拡充を強く求めた。同局は米国の輸出管理を担う中核機関であり、予算が拡大されれば、現場での監視強化が可能になるという。具体的には、倉庫や輸出業者を訪問し、輸出規制の順守状況を直接確認できる担当官の増員が挙げられた。
また、証言ではトランプ政権の政策を踏襲するかたちで、半導体の国内製造とサプライチェーンの米国回帰にも言及。台湾積体電路製造(TSMC)などの大手企業が米アリゾナ州に建設中の工場が、今後の技術的自立にとって重要な役割を果たすとした。
技術流出防止と経済安全保障、両立の難しさも
今回の発言は、米中間の技術覇権争いが次の局面に入ったことを示唆している。AIをはじめとする先端分野では、基礎研究から応用まで幅広い領域で米国が優位に立つものの、中国は国家戦略として急速な技術獲得と追い上げを図っている。ラトニック氏の指摘通り、政府と民間が一体となって進める中国の技術政策は、今後さらに警戒を要する対象となる。
輸出規制の強化は、確かに国家安全保障の観点では必要な措置といえる。しかしその一方で、米国企業が海外市場での競争力を維持する上での制約となる可能性もある。過度な規制は、グローバル市場での取引機会を失い、企業の成長を妨げるリスクをはらんでいる。
また、技術管理体制の強化には人的・財政的なリソースが不可欠である。今回の予算要求が実現すれば、執行力の向上は期待できるが、それがすぐに成果につながるとは限らない。制度の実効性を高めるには、国際的な連携や透明性の高い運用も求められるだろう。
今後、AIや半導体をめぐる米中の対立はさらに激化すると見られる。米政府としては、自国の技術的優位を維持するために、より精緻で柔軟な規制運用と同時に、同盟国との連携強化が急務といえる。