米AI企業Anthropicは、2026年2月以降に中国拠点のAIラボ7組織によるClaudeへの不正な蒸留攻撃を確認し、阻止したとするレポートを公開した。AlibabaやMoonshot AI、DeepSeekなどが推論能力を抽出し、自社モデルの訓練や研究開発に利用したとしている。
中国7組織がClaudeの推論能力を大規模抽出
2026年9月10日、Anthropicはレポートを公表し、中国組織などからの蒸留被害について報告した。
不正蒸留は、他社モデルの能力を許可なく大規模かつ秘密裏に抽出し、別のモデルへ複製する行為を指す。通常の蒸留は正当な訓練手法だが、同社が確認した攻撃では、盗難カードやAPIキー、偽アカウント、プロキシサービスなどを使ってアクセス制限を回避していたという。
最大規模とされたAlibabaの事例では、Opus 4.6と4.7の思考過程を対象に、1日最大約300万件、3500超の不正アカウントからリクエストが送信された。2026年5〜7月だけで1億5100万件超のやり取りが確認され、得た推論データはQwen 3.5〜3.7の訓練などに使われたという。
Moonshot AIとDeepSeekについては、自社モデルを利用していると考えていた顧客の一部リクエストを無断でClaudeへ転送し、その応答や思考過程を保存してモデル訓練に利用したと報告している。
こうした転送には企業内部の資料や認証情報などの機密情報が含まれる例もあり、利用者が知らないまま第三者へデータが渡った可能性も浮上した。
ほか、中国のZhipu、Xiaomi、SenseTime、MiniMaxなどの組織においても、Claudeとのやり取りや推論データを取得し、自社モデルの訓練や研究開発に利用したとされている。
Anthropicは対策として、不審な利用パターンを識別する分類器やアカウント停止、内部推論の要約、本人確認などを組み合わせた多層防御を導入している。単一の対策では防げないとして、組織単位で不正アクセス網を特定し、継続的に防御策を更新する方針だ。
防御強化で能力流出を抑制 正規利用との両立が課題か
蒸留技術は、高性能モデルから得た知見を小規模なモデルへ移し、必要な計算資源や開発コストを抑えられるため、手段として用いられるケースがある。適切な許諾とデータ管理のもとで利用すれば、AIの高性能化や低コスト化を進める有力な手段になり、Anthropicも正式な蒸留は非難していない。
一方、他社モデルへの大量アクセスで同等の能力を短期間に獲得できるようになれば、独自研究へ投じた資金や計算資源を巡る競争条件が崩れる可能性がある。
さらに、利用者の入力が本人の認識しない場所へ転送されれば、モデル能力の流出だけでなく、個人情報や企業秘密の管理にまで問題は広がるかもしれない。
今後は、蒸留そのものを排除するのではなく、正当な研究・サービス利用と無断の能力抽出をどう区別するかが焦点になるだろう。
AI企業にはモデル防御の強化に加え、外部モデルへの転送や学習利用について、利用者が把握できる「より透明な運用設計」が求められることになりそうだ。
Anthropic 「Detecting and countering misuse of AI: September 2026」
関連記事:
Anthropic、アリババ関連の運営者がClaudeを蒸留したと主張 約2万5000の不正アカウント利用と説明

ホワイトハウス、中国のAI蒸留不正に対抗措置 産業規模の技術流出に警戒

OpenAIがDeepSeekのAI学習に米モデル蒸留疑い指摘 米中AI競争の新局面
