これまで、日本のエンターテインメント産業を牽引してきたファンの熱狂的な応援活動、すなわち「推し活(Oshikatsu)」は、X(旧Twitter)やInstagram、TikTokといったSNSプラットフォームの普及により、日常的かつ多様な形に進化を遂げてきた。しかし、現状のプラットフォーム経済圏においては、ファンの熱量や応援行動が各SNS上に分散・分断されており、エンターテインメント企業側がファンの需要や真の貢献度を正確に把握し、それを直接的な価値としてファンに還元することが極めて困難であるという構造的な課題が存在する。ファンは多大な時間と情熱を投じてコンテンツを応援しているにもかかわらず、その履歴は中央集権的なプラットフォームのアルゴリズムに消費されるのみであり、経済的な還元や権利の共有には至っていない。
このような背景のもと、ブロックチェーン技術を活用した「エンターテインメントのオンチェーン化」を掲げ、次世代のグローバルなエンタメ経済圏を創出するために設立されたのが、株式会社YOAKE entertainment(以下、YOAKE entertainment)である。同社は、従来の枠組みを超え、ファンの熱量を可視化し、言語や国境の壁を超えて世界中のファンがアイドルやIP(知的財産)を応援できる仕組みの構築を目的としている。
「テクノロジーによるエンターテインメントの熱量のアップデート」という極めて明確なビジョンのもと、日本を代表するエンタメ企業群とWeb3トッププレイヤーによる合弁体制で挑む同社の事業戦略、そして次世代エンタメプラットフォーム「IRC APP」の全貌について、代表取締役 森山聡太氏に話を聞いた。

代表取締役 森山聡太
株式会社YOAKE entertainment 代表取締役社長。Record Protocolファウンダー。グローバルなブロックチェーンエコシステムにおける事業開発および主要暗号資産取引所への上場推進の経験を経て、テクノロジーの力でエンターテインメント、IP・コンテンツの可能性を広げることを志し、代表取締役社長に就任。現在はIP金融(IPFi)の基盤となるRecord Protocolを構築し、ファンダムの貢献をオンチェーンで可視化するインフラの実現に取り組んでいる。
業界のパラダイムシフトと新たなエンタメ経済圏の実現に向けた体制構築
── Web3インフラの最前線からエンターテインメント領域へのキャリアチェンジの経緯と、YOAKE entertainment設立の背景について教えてください。
森山氏:
2019年からAstar Networkの開発元であるStake Technologies(現 Startale Group)で、主にアジア地域での事業開発に携わっていました。ブロックチェーンのインフラ側にいたからこそ見えていた景色がありまして、技術が社会に届くには「人に対する価値提供」が必要だと常々感じていたんです。その中で、エンターテインメントが人々にダイレクトに幸せを届けていることに強い価値を感じました。
2020年代に入り、エンターテインメント産業は、従来のCD販売やライブチケット収益に依存した直線的なビジネスモデルから、ファンとIPが双方向に価値を創造する新たな形への移行を模索し始めています。デジタル技術の進化は、コンテンツの楽しみ方だけでなく「所有権」や「貢献度」の概念に不可逆的な変化をもたらしました。私たちはこのマクロ的な変化を捉え、Web3テクノロジーをファンマーケティングの中核に取り入れることが、グローバルなファンベースの獲得と新たなエンタメ経済圏(トークンエコノミー)の創造に直結すると考え、事業を進めています。
── その壮大なビジョンを実現するために、類を見ない強力なパートナーシップが構築されていますね。
森山氏:
はい。YOAKE entertainmentは、IPの創出・育成・流通・プロモーションから、ブロックチェーン上での価値の流動化までを完全に自社エコシステム内でシームレスに実行できる体制で実現を目指しています。
総合プロデューサーである秋元康氏(Y&N Brothers)の日本最高峰のIP創出能力を筆頭に、TWIN PLANETの強力なインフルエンサーネットワークとマーケティング戦略(矢嶋健二氏、福山正之氏)、アソビシステム(中川悠介氏)の世界基準のポップカルチャー発信力、W TOKYO(村上範義氏)のZ世代・アルファ世代への圧倒的なリーチ力という伝統的エンタメ層のアセットが結集しています。
さらにWeb3側からは、Startale Group CEOの渡辺創太氏が技術的基盤とグローバルのクリプト市場へのアクセスルートを確保し、実務を牽引する専門技術人材として、ウォレットやNFTマーケットプレイスの知見を持つ中村 昂平氏がCPOとして参画しています。これにより、エンタメの熱量をクリプトネイティブで摩擦のないプロダクトへと変換する世界水準の開発チームが構築されています。
Soneium採用と約5億円の戦略的資金調達をされた背景
── 数あるブロックチェーンの中から、ソニーグループが開発するEthereum Layer 2「Soneium(ソニューム)」を主要なインフラストラクチャとして採用された最大の理由は何でしょうか。
森山氏:
グローバルな「マスアダプション(一般大衆への普及)」を見据えた、極めて合理的な経営判断です。数万のブロックチェーンが存在する中で、純粋に技術だけで優劣を判断するのは難しくなっているのが現状ですが、SoneiumはEthereumのセキュリティレベルを持つOP Stackを活用しており、世界的に実証された技術スタックである点は評価しています。
そして何よりも、ソニーという世界的なエンターテインメント・テクノロジー企業の絶対的なブランド力、コンプライアンス基盤、そしてSoneiumが構築しようとしている巨大なエコシステムを活用できることが決め手です。これにより、暗号資産に馴染みのない一般のファン層に対するオンボーディング(導入)の心理的・技術的障壁を劇的に引き下げることが可能となります。
── 2026年2月には、Sony Innovation Fundから約5億円という大規模な追加出資を受けられました。

森山氏:
Sony Innovation Fundとは、インキュベーション企画「Soneium Spark」でエンターテインメント賞を受賞するなど、事業領域でのコラボレーション実績がありました。その中で、お互いの目指す方向性──テクノロジーでエンタメの体験を進化させるという思想が完全に合致し、事業をさらに一段上のフェーズへ引き上げるための大規模な資本関係に至りました。ソニーの欧米市場へのプレゼンスを通じ、日本のエンターテインメントをグローバルに広げやすい基盤が確固たるものになりました。
「IRC APP」の設計思想とシームレスなUX
── 「IDOL RUNWAY COLLECTION Supported by TGC(IRC)」の公式アプリ「IRC APP」は、次世代のエンタメプラットフォームを目指していると伺っています。一般のファンが主要ユーザーとなりますが、ブロックチェーンになじみのない方々へどのようなUXの工夫をされていますか。
森山氏:
「ブロックチェーンならではの体験を活かしながら、ブロックチェーンを意識させない」──この絶妙なバランスを最も重視しています。
具体的には、ノンカストディアル(ウォレットの自己管理)の仕組みは導入しつつも、Google・Appleアカウントの認証に加えて、日本のユーザーにとって極めて重要なLINEログインによるシームレスな体験を実現しました。

ユーザーが会員登録をすると同時にWeb3ウォレットが自動で生成される仕組みになっています。ただし、ウォレットやガス代、暗号資産といった技術的な要素をユーザーが意識する必要は一切ありません。ユーザーはブロックチェーンを意識することなくサービスを利用している状態であり、そのように技術の存在を感じさせない設計こそが、サービス体験として重要だと考えています。
── 実際にアプリを拝見すると、非常に手軽で直感的なUIですね。
森山氏:
はい。現在はiOSとAndroidのモバイルアプリと各種ブラウザから無料で手軽にアクセスできるよう設計しており、日本語と英語に対応しています。アプリのトップ画面では、AIが分析した出演者の「Xトレンドポスト」がランキング形式で表示されるなど、普段のSNSの延長線上で自然に楽しめるUI/UXを目指しました。まずは「いつもの推し活が少し楽しくなる、便利になるアプリ」として触れてもらうことも重要だと考えています。

ファンの非金銭的な熱量を可視化するIRCスコアとは
── アプリの核となる、SNS上の応援活動をAIが分析し「IRCスコア」としてブロックチェーン上に記録する仕組みに関心があります。
森山氏:
IRC APPの最大の特徴は、「AIがSNSでの応援を見える化」することです。ユーザーがアプリをXアカウントと連携して出演者へのポジティブな応援投稿をすると、AIがその熱量や前向きな情報を分析し、実績として「IRCスコア」を付与します。

決済データのような金銭が絡むデータは決済会社が扱えばいいんです。エンタメ企業がこだわるべきは、「ファンの非金銭的な熱量」という定性的なデータを定量化することであり、そこに長期的に価値が増す要素があると考えています。
── ブロックチェーンに記録することの意義はどこにあるのでしょうか。
森山氏:
ブロックチェーンでなくてもできることはあります。しかし、長期的なデータ利活用やAIによる読み取りを考えたとき、中央集権的なデータベースと異なり、運営が恣意的にデータを操作していないという検証可能性がある点で、インフラとしての拡張性に大きな意味があります。全ての活動がSoneium上に半永久的に記録されることで、ファンの応援が「改ざんされない資産」として蓄積されていくのです。

── 蓄積されたIRCスコアは、ファンにとって具体的にどのようなメリット(体験)に繋がるのでしょうか。
森山氏:
最も分かりやすい体験が、「IRCスコアに連動したメンバーシップ特典」です。継続的でポジティブな応援投稿をすればするほど、アプリ内の会員ランクがRegularからBronze、Silver、Goldへと上がり、ランクに応じた特典が解放されていく仕組みです。具体的には、イベントチケットの先行販売やアップグレード先着抽選への参加権、専用入場レーンの利用、さらにはブースの優先体験といった、IRCイベントをより深く楽しめる体験が用意されています。つまり、日頃からSNSで熱心に推しを応援し、プラットフォームやIPに貢献しているファンほど、イベント当日により充実した特別な体験を得られるのです。
インフラの汎用化と、日本発カルチャーのグローバルエコシステム化
── IRC APPでの取り組みを起点に、今後はどのようなロードマップを描いていますか。
森山氏:
IRC APPで実証しているオンチェーンでの「推し活」評価システムは、アイドル領域に限定されるものではありません。今後は音楽、映画、ゲーム、さらにはアニメーションといったあらゆるエンターテインメントジャンルへ活用できると考えています。YOAKEのプラットフォームを、単一のIPに依存しない、あらゆるジャンルのファンコミュニティの熱量を可視化し価値として循環させるユニバーサルなインフラストラクチャへと進化させることを目指しています。
── それが、日本のエンタメを世界へ届ける武器になるということですね。
森山氏:
はい。日本の音楽市場は世界第2位でありながら、これまでエンターテインメントの熱量を測るグローバルなインデックス(指標)が存在しませんでした。オンチェーンでファンの応援データが蓄積されることで、誰もが検証可能な形で「日本のエンタメIPの価値」を示す強力な武器になります。
日本特有の高度に洗練された「推し活(Oshikatsu)」という応援文化を、言語や国境、決済手段の壁を越えたグローバルな体験へとテクノロジーによって翻訳・アップデートします。特に、日本のアニメやポップカルチャーへの関心が極めて高い北米、欧州、アジア諸国をターゲットに積極的に展開することで、日本政府が掲げる「コンテンツ海外売上高20兆円」という国家目標にも直接的に貢献するエコシステムを構築できると考えています。
クリエイターの資金調達にブロックチェーンを活用する可能性もありますが、外部資金のプレッシャーがクリエイティビティを損なうリスクも考慮し、日本の事務所やレーベルが培ってきた権利保護の知見を取り入れ、投機的にならない仕組みづくりを大前提として進めていきます。
IRC APPが利用されるイベント詳細
「CREATEs presents IDOL RUNWAY COLLECTION Supported by TGC (CREATEs presents IRC 2026)」

アイドルライブとファッションショーを融合させた大規模なフェスティバルであり、2025年のイベントでは実に107名のトップアイドルが出演し、約11,800人を動員するという興行的な大成功を収めています。今年は、2026年3月15日に、国立代々木競技場第一体育館にて「CREATEs presents IRC 2026」の開催が予定されており、国内トップクラスのアイドルグループが集結する予定となっています。