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AI

AIが導き出す「示唆」で人事の構造を変革する。導入企業4,500社を誇るカオナビが提唱する「タレントインテリジェンス」の本質に迫るCPOインタビュー。

井上 英樹
井上 英樹 株式会社カオナビ CPO プロダクトプランニング本部長

ECサイト構築・支援企業にて大手企業向けECサイトの構築を担当後、製品開発部門の執行役員としてプロダクト開発と事業推進を統括。2025年にカオナビへ入社し、プロダクトマネージャーとしてプロダクト戦略を推進。同年プロダクトプランニング本部長を経て、2026年4月にCPO就任。タレントマネジメント・労務・勤怠・採用管理にまたがる統合的なプロダクト戦略と、プロダクトマーケティングを含む販売戦略の両輪を担う。

井上 英樹

導入企業4,500社超、継続利用率99%以上、そして2025年3月には連結ARR100億円を突破——。タレントマネジメントシステムのリーディングカンパニーである株式会社カオナビが、いま新たなビジョンとして「タレントインテリジェンス™」を掲げています。

人材データを「集めて管理する」時代から、AIが意思決定を支える「示唆出し」の時代へ。この転換は、人事と経営の関係をどう変えるのでしょうか。AI領域を追い続けてきたPlus Web3編集部が、同社CPO(プロダクトプランニング本部長)の井上英樹氏に話を聞きました。

プロフィール

井上 英樹(いのうえ・ひでき)|株式会社カオナビ CPO プロダクトプランニング本部長
ECサイト構築・支援企業にて大手企業向けECサイトの構築を担当後、製品開発部門の執行役員としてプロダクト開発と事業推進を統括。2025年にカオナビへ入社し、プロダクトマネージャーとしてプロダクト戦略を推進。同年プロダクトプランニング本部長を経て、2026年4月にCPO就任。タレントマネジメント・労務・勤怠・採用管理にまたがる統合的なプロダクト戦略と、プロダクトマーケティングを含む販売戦略の両輪を担う。

人的資本経営の「壁」——なぜ「開示」は「人を生かす」につながらないのか

――4,500社への導入、ARR100億円の突破と、まさに日本企業の人事データが集まる場所におられます。その立場から見えてきた、人的資本経営をめぐる「誤解」や「壁」について教えてください。

井上:2023年頃の有価証券報告書における人的資本情報の開示義務化に合わせて、各社でKPIの整備は一気に進みました。カオナビをお使いのお客様も、会社に必要な情報をどんどん登録し、可視化するところまでは進んでいます。これまでやってこなかったことなので、非常に重要な一歩だと思っています。

ただ正直なところ、多くの企業が「開示で止まってしまっている」のが実態です。数字を出すことにフォーカスが当たり、本来の目的であるはずの「人を生かす」ことには、まだ直接つながっていない。

――構造的な要因はどこにあるとお考えですか。

井上:表面的には3つの問題があるのですが、根っこは1つだと思っています。それが「経営戦略と人事戦略がつながっていない」ことです。

たとえば経営会議では、売上や利益の数字は毎週のように報告されますよね。でも人材のことが語られるのは、評価会議などごく限られた場だけです。経営は数字で動き、人事は人事で動いていて、両者が翻訳されないまま並走している。これが構造問題の本丸だと感じています。

そして、この断絶を生んでいる土台に、さらに2つの課題があります。1つはデータの分断。人材情報の一元化・可視化は進んできた一方で、評価・学習管理・スキル管理といったデータが複数のシステムに散らばり、まだ十分につながっていません。もう1つは「可視化止まり」です。ダッシュボードでグラフ化はできても、それは過去のデータでしかなく、「次に何をすべきか」は生まれない。結局、ベテラン人事の勘や外部HRコンサルタントの提案に頼ることになり、データが意思決定につながらないんです。

整理すると、データがバラバラで(分断)、見えても動けない(可視化止まり)から、人事は経営と同じ土俵で語れない(断絶)。この順番でつながっています。タレントインテリジェンスは、まさにこの一番奥にある断絶を、AIによる示唆出しで埋めにいく取り組みです。

――人的資本は最近「投資」という言葉で語られますが、実態としてはまだ「コスト」として扱われているケースも多い印象です。

井上:まさにそうで、開示のためにデータを集めて出すところまではやったけれど、本筋につながっていない。本来は経営戦略があって、それを達成するためにどんな人材が必要か、その人材を育成するのか外部から登用するのか、という流れがあるはずです。ところが実際は、経営戦略は数字で動き、人事戦略は人事戦略で別々に動いてしまっているんです。

タレントインテリジェンスとは——AIで「管理ツール」を「意思決定インフラ」へ

――その課題への答えが、新たに提唱されている「タレントインテリジェンス」だと理解しています。従来のタレントマネジメントと何が決定的に違うのでしょうか。

井上:タレントマネジメントは、人材情報の一元化と可視化です。タレントインテリジェンスはその先、蓄積されたデータにAIを掛け合わせ、未来の予測をしたり、「何をすればいいか」という示唆出しまで行うところが本質です。可視化で終わらせない、ということですね。

これまでのカオナビは、タレントマネジメントの事業でした。タレントインテリジェンスでは、AIを使ってコーチングをしたり、「この研修を受けた方がいい」と提案したり、社内の制度設計を支援したりといった領域まで踏み込んでいきます。

比較軸タレントマネジメントタレントインテリジェンス
主な目的人材情報の一元管理・可視化データに基づく経営・組織意思決定の高度化
データの扱い過去実績や属性情報の記録AIによる予測とインサイト(示唆)の抽出
役割マネジメント手法・プロセスの整備戦略的な意思決定の支援

――両者は別々のものではなく、地続きということでしょうか。

井上:そうです。むしろ循環させることに意味があります。カオナビにデータが溜まる。溜まったデータからAIがしっかりした示唆を出す。その示唆に基づいて育成などの施策を動かすと、「この人がこのスキルを得た」「レベルが上がった」と、また人のデータが動く。すると次のステップの示唆が出てくる。データが溜まるほど新しい示唆が生まれ、また次の打ち手につながっていく循環モデルです。

お客様目線で言えば、これまでベテラン人事の勘や外部コンサルタントの提案に依存してきた領域を、自社のデータで自分たちで回せる状態をつくりたいんです。もちろん100%をプロダクトで代替できるとは思っていません。制度設計の支援や、「こういう運用をしないと良い示唆が出ないので、こうデータを登録してください」といった部分など、人の手が残る領域はしっかりあります。それでも2〜3割でも自走できる範囲が広がれば、大きな変化になります。

AI×人事の現在地——人事の約7割が使い、それでも組織が変わらない理由

――人事部門のAI活用率は39.1%と、全社平均の16.8%に比べても突出しているという統計データがあります。AIが自動で示唆を出す時代、人事や経営者の役割はどう変わりますか。

井上:実は当社のユーザーに取っているアンケートでは、人事業務で生成AIを使っていると回答した方は約7割にのぼります。タレントマネジメントに取り組んでいるお客様なので感度が高い、という前提はありますが。

ただ、使い方の中身を見ると、データ整備、資料作成の支援、問い合わせ対応といった業務効率化に大きく偏っているんです。本来、人事がやりたいこと・やらなければいけないことは、人材配置の最適化や、部門に必要なスキルと所属メンバーのスキルのギャップの可視化、最適な育成プランの設計といった領域のはずです。そこにはまだ達していない。「使ってはいるけれど、使いこなせている状態ではない」というのが実態だと思います。

――そのギャップはなぜ生まれているのでしょうか。

井上:データの質・量・鮮度です。たとえば自分のことを何も知らない汎用LLMに「うちの社員をどう育成すべきですか」と聞いても、当たり障りのない平べったい答えしか返ってきませんよね。自分のことを知らない隣の席の人に聞くのと変わらない。適切な示唆を出すには、その会社固有のデータが揃っていることに加え、鮮度——直近半年程度のデータがあることが重要です。1〜2年前のデータでは適切なものは出せません。

だからこそ人事には、データを集めて終わりではなく、それを使って組織を変革するところまでが求められます。経営者で言えば、「勘で決める」状態から、データに基づいて判断できる状態への移行です。ただし誤解してほしくないのは、最終的にいくつかの選択肢から意思決定をするのは、やはり経営者や人事責任者だということ。勘や経験が不要になるのではなく、勘と経験の精度を上げるためにデータを活用する。それがこれからのAI活用の本質だと思っています。

――AI機能の具体像も伺いたいです。いま検索ボリュームが最も大きいワードのひとつが「AIエージェント」ですが、カオナビではどのような展開を考えていますか。

井上:3つの方向性を考えています。

1つ目は1on1の支援です。上司と部下の対話履歴や、それぞれの性格・特性データから、「その日どういう話題をして、どうネクストステップにつなげるか」をAIが提案します。1on1は雑談で終わってしまうケースも多いですが、本来はキャリア支援の場です。これまでのやり取りから「次はこれに取り組んでみよう」というところまで示してあげたい。

2つ目は個人のキャリア支援です。本人のWill・Can・Mustやスキルの志向性から、社内のキャリアパスに対してどのスキルが足りないかを可視化する。さらにやりたいのは、社内のロールモデルの提示です。「このスキルが足りないからやってください」と言われても、どんな人を目指せばいいのかが分からないと動きづらいですから。

3つ目はマネジメント層の支援です。中間管理職は、部下のマネジメントとプレイヤー業務を兼ねていて本当に忙しい。部門のエンゲージメント低下や離職の予兆には、どうしても後から気づきがちです。そこをAIが「この部門のエンゲージメントが低下しています」「こういう組織課題がありそうです」と課題出しをして、打ち手の選択肢まで提示する。答えを押し付けるのではなく、選択肢を出すイメージです。こうしたAIエージェント的な体験は、PoCも含めて進めているところです。

AIエージェントが変える人事の未来——ネットワーク型組織と”持ち運べるキャリアデータ”

――最後に、タレントインテリジェンスが日本のビジネスインフラとして普及した先、企業の組織構造や個人の可能性はどう解放されていくのか。CPOとして描くビジョンをお聞かせください。

井上:当社のパーパスは「“はたらく”にテクノロジーを実装し、個の力から社会の仕様を変える」です。タレントインテリジェンスが普及した先に描いている未来は、まさにこの延長線上にあります。

まず組織側の変化です。日本企業の多くは、まず「あるべき部署の姿」を決めて、そこに人を当てはめていきますよね。でも実態は、1つのプロジェクトに対して複数の部署から人が集まり、プロジェクトやミッション単位でチームを組んで仕事をしています。部署は育成や評価の責任の所在としては重要ですが、仕事の実態とはすでにズレている。だから経営の仕事が「部署に人を配置する」ことから「人が才能を発揮できる場所をつくる」ことに変わると、一番面白いと思っています。本部・部・グループというピラミッド型から、独立したプロジェクト同士がつながるネットワーク型へ。労働人口が減っていくなかでは、その方が確実に成果が出るはずです。

――個人側には、どんな変化が起きるのでしょうか。

井上:個人側の変化は、もっと大きいと思っています。いま個人のキャリアデータは、基本的に会社に預けられている状態です。転職して会社が変わると、評価もスキルも、その会社に貢献してきた実績も、だいたいリセットされてしまう。これは個人にとっても、会社にとっても、社会にとってもかなり大きな損失です。

だから中長期で描いているのは、スキル・経験・貢献度といったキャリアデータを、個人が持ち運びできる世界です。特定の企業内のデータに閉じ込められた状態ではなく、個人を主体にデータが流通していく。それがパーパスの「個の力から社会の仕様を変える」につながるのではないかと。

実は今回、事前に御社の記事をいろいろ拝見して、Web3の文脈で語られる「セルフソブリン(自己主権型)」の考え方とリンクするんじゃないか、と感じていたんです。いまはサービスの構造上、データの所有はどうしても企業側になりますが、最終的にはデータの流通を設計するインフラの提供にまで行き着きたい。壮大な話ですが、労働人口が減っていく日本で、いまの働き方の延長線上ではかなり厳しい。それくらいのことをやる必要があると思っています。

――ブロックチェーンでスキルや資格を個人に紐付けるプロダクトに私たちも取り組んできた経緯があり、非常に近い未来像だと感じます。本日はありがとうございました。

まとめ

「数字を出す」人的資本経営から、「人を生かす」人的資本経営へ。井上氏の語るタレントインテリジェンスは、AIによる示唆出しを通じて経営戦略と人事戦略をつなぎ直し、最終的には個人がキャリアデータを持ち運ぶ社会まで見据えた構想でした。勘と経験を否定するのではなく、その精度を上げるためにデータとAIを使う——AI時代の人事・経営のあり方を考えるうえで、重要な視点ではないでしょうか。

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