2026年3月19日、株式会社ロジロジは生成AI薬歴アシスタント「ピアス」の実証結果を発表した。新潟市のふたば薬局での1年間の運用により、薬歴作成時間を45%削減したと明らかにした。国内調剤現場の業務構造に変化をもたらす可能性がある。
薬歴45%削減、年34.7日分の余力創出
ロジロジが提供する「ピアス」は、処方データと服薬指導の音声をAIが統合処理し、薬歴を自動生成するシステムである。医薬品名や用量といった処方情報を踏まえて文章化する独自技術を採用しており、医療文章生成に関する特許も取得済みだ。従来の音声文字起こし型ツールと比べ、文脈理解を伴う点が特徴とされる。
ふたば薬局では2025年2月から約1年間にわたり実運用が行われた。その結果、薬歴1件あたりの作成時間は220秒から120秒へと短縮され、100秒、率にして45%の削減が確認された。年間約1万枚の処方箋を扱う同薬局では、薬歴作成に要する時間は611.1時間から333.3時間へと減少し、277.8時間、労働日換算で34.7日分の業務余力が創出された。
また、ピアスは電子薬歴と独立したシステムとして設計されており、既存の電子薬歴「Musubi」などを維持したまま導入可能である。薬局ごとのテンプレートに合わせた出力にも対応し、コピー&ペーストで転記できる運用を前提としながらも、修正がほとんど不要な精度が実証されたとされる。
背景には、調剤報酬改定によって対人業務の評価が強化される一方、薬剤師の時間の多くが依然として薬歴記録に費やされている現状がある。
服薬指導の充実と記録負担の増大が同時に進む構造的課題に対し、AIによる効率化が現実的な解決策として浮上している。
対人業務強化を加速 導入拡大とリスク
今回の実証結果は、薬剤師の業務配分を再設計する契機となる可能性がある。
創出された時間を患者対応や在宅医療へ振り向けることで、薬局の価値は記録業務中心から対人サービス中心へと移行していくと考えられる。制度面でも対人業務の評価が高まる中、収益構造の変化を後押しする要素になり得る。
特に、既存の電子薬歴を維持したまま導入できる点は普及のハードルを下げる要因となる。大規模なシステム刷新を伴わないため、中小薬局でも段階的な導入が可能であり、業界全体での生産性向上に波及する余地があると言える。
一方で、運用上の課題も無視できない。電子薬歴との直接連携がないため、最終的な転記作業は残り、完全自動化には至っていない。また、AIが生成した薬歴の最終責任は薬剤師が負う必要があり、確認プロセスの設計次第ではヒューマンエラーの新たな温床となる可能性もある。
これらを考慮しても年間約35日分の業務余力創出というインパクトは大きい。生成AIが専門職の時間構造を変革する事例として、医療分野におけるデジタルトランスフォーメーションの進展を加速させる契機になると見られる。
今後は他薬局での再現性や、システム連携の高度化が普及の鍵を握ることになる。