OpenSeaによるロイヤリティツールとNFTマーケットプレイスの反応
2022年第3四半期から終わり頃から再び議論の的になったNFTのクリエイターロイヤリティ問題。
各NFTマーケットプレイスが様々な意見を交わす中、しばらく静観していたOpenSeaが新たなロイヤリティ制度とクリエイター向けのツールを発表したことにより、NFT市場に新たな反応を生み出しました。
NFTのロイヤリティ問題
NFTは、クリエイターがデプロイしたチェーンのエコシステムが存続する限り二次流通に対するロイヤリティ収益を得ることができる点で大きな注目と期待があてられていました。
ここで表現するロイヤリティとは、二次流通時に取引額の数%がクリエイターに分配されることを指しています。
しかし、sudoswapによるロイヤリティの非サポートをきっかけに、X2Y2ならびにMagic Edenがロイヤリティ支払いを購入者に選択させる方針を採用するなど、NFTのロイヤリティ神話が崩れかけています。
各NFTマーケットプレイスがクリエイターロイヤリティに対する様々な意見を交わし合う中、OpenSeaは新たなロイヤリティ制度とクリエイター向けツールを発表によって沈黙を破りました。OpenSeaの発表については以下の記事で分かりやすくまとめているため、合わせて読むとより理解が深まると思います。
とはいえ、なぜNFTマーケットプレイスごとにロイヤリティの支払いに差が生じるのでしょうか?これを紐解くには、コントラクトの仕組みに目を向ける必要があります。
本記事では、ロイヤリティの実態に目を向けることで、本論争の背景とOpenSeaの発表による市場の反応について分かりやすくお伝えします。
ロイヤリティの仕組みとEIP-2981
そもそも、NFTを構成しているコントラクトにはロイヤリティを分配する仕組みは実装されていません。これには、コントラクト側ではNFTを「単純に送付するのか」「売買の結果として送付するのか」という判断ができないことに起因します。NFTの標準規格であるERC-721には、売買専用の機能はなく全て送付という基本的な機能を利用しています。
そのため、OpenSeaやLooksRare等のマーケットプレイスは各社が持つオフチェーンのデータベースを用いてロイヤリティ分配を実現しています。
これでは各マーケットプレイスで、ロイヤリティに関する設定を独自に保存しておく必要がありますし、ロイヤリティに関する設定の透明性に疑惑が残ります。
このような課題感からロイヤリティに関する設定(ロイヤリティ金額、振込先ウォレットアドレス)をコントラクト上に保存するための拡張標準規格EIP-2981が普及し始めています。
鋭い方はここまでの説明を聞いて「EIP-2981でも分配に関する根本的な問題を解決してないじゃないか」と思われたかと思います。まさにその通りで、今回のロイヤリティ論争もオフチェーン処理で配分するしかなかった技術的背景がもたらしたと言えるでしょう。(EIP-2981: NFT Royalty Standard について)
この論争にある種の着地点をもたらしたのがOpenSeaです。数ヶ月の沈黙の末にロイヤリティを半ば強制するツールを公開しました。
OpenSeaが発表したロイヤリティツール『Operator Filter Registry』について
まず前提として、これは大きなシステムではなく単純なコードスニペットであり、コントラクト内で支払いロジックを実装している訳でもありません。なので、先ほど取り上げた根本問題を解決しているか?というとしていません。
その代わりに、ロイヤリティ対応しないNFTマーケットプレイスのコントラクトアドレスを名指しすることでトランザクションを行わない処理を実装しています。
クリエイターは、自身のコントラクトに本ツールを導入することでSudoswapやその他のロイヤリティを強制しないマーケットプレイスでの取引を防ぐことができます。
では、実際にどのように機能するのかコントラクトを覗いてみましょう。本記事では、OpenSeaが公開しているGithubリポジトリおよびサンプルコードを用いて解説します。
クリエイターはコントラクトにDefaultOperatorFiltererをインポートして該当するメソッドにModifierを追加することで利用できます。(解説をわかりやすくするため、該当するメソッドを1つのみ示しています)
上記でimportしているDefaultOperatorFiltererは、さらにOperatorFiltererを継承していますのでそちらの内部処理がどうなっているか覗いてみましょう。
まず冒頭で、参照したいレジストリーのコントラクトアドレスを指定しています。以降では、NFTのコントラクトに使用したModifierが定義されており、内部では登録したレジストリーのisOperatorAllowedメソッドを呼び出しています。
では呼び出したレジストリーのメソッドを見てみましょう
isOperatorAllowed()では、レジストリーに登録されている許可しないコントラクトアドレスと許可しないメソッドの呼び出しについて検証しています。containsの括弧内に書かれているのが、送付などを実行しようとしているマーケットプレイス等のコントラクトアドレスが代入されます。参照するリストにコントラクトアドレスが含まれていれば「Address Filtered」というエラーメッセージと共にトランザクションを終了します。
上記の一連の処理をまとめると、クリエイターはOpenSeaが管理するリストを参照することでトランザクション処理を続けるか終了させるか決めるということになります。
正確には独自にレジストリーを定義して参照させることも可能ですし、他のNFTマーケットプレイスが公開するレジストリーを参照することも考えられます。しかし、現状はOpenSeaが公表したレジストリーを採用するコレクションが多数と考えられるでしょう。
さらに注意したいのは、一度レジストリの参照先を設定するとデプロイ後に変更できない仕様となっているため、OpenSeaの一任により任意のマーケットプレイスにおける取引を制御できてしまうことを意味します。そのため本ツールの普及によって、非中央集権に取引できるブロックチェーン上のトークンの一特性が失われる可能性があります。
Openseaのロイヤリティツール発表の煽りを受けて方針転換したマケプレ
以上のOpenSeaの動きを受けて、元々ロイヤリティの支払いを購入者に委ねていたBlurとX2Y2はその方針を転換しました。
X2Y2は、9月頭時点でホルダーによる投票によってロイヤリティの支払いを決定する柔軟なロイヤリティシステムを採用していました。しかし、OpenSeaによる発表とそれに賛同するクリエイターの動向を見て、ロイヤリティを適用する方針に転換しました。
わずか数ヶ月での方針転換ではありますが、矢面に立ち施策を打ち続けていたX2Y2の動き方には好感を持てます。一方、OpenSeaの振る舞いは強者さながらですね。
同じようにBlurもロイヤリティを擁護する方針に変更しました。
元々Blurのロイヤリティの仕組みはOpenSeaや他のマーケットプレイスと違い、ロイヤリティを支払う代わりにエアドロップによる報酬を受け取ることができるという独自のインセンティブ構造を用いていました。
しかしOpenSeaの発表により、当該ツールを利用して出品を許可しないNFTコレクションに対しては強制的にロイヤリティの支払いを課すことを発表しました。
筆者の考えとしては、クリエイターはロイヤリティを得られる”可能性が高い”プラットフォームを利用する方が自然であること、今後拡大を続ける市場に根を張るのであればNFTの供給側でイニシアチブを獲得した方がGMV拡大に結びやすいことから、OpenSeaの発表は強気な逆張り(OpenSeaからすればこれまでの路線上でありますが)であり、他のマーケットプレイスは追従せざるを得なかったと考えます。
さて、ロイヤリティを廃止したSudoswap、購入者の選択制にしたX2Y2, Magic Eden, Blur等の登場により、クリエイターに収益が分配され続けるという、これまで語られてきたNFTの特徴が非現実的なものとなりつつありました。
今回のOpenSeaの発表は、クリエイターの収益還元を持続可能な形で実現するのか、OpenSeaによる中央集権的とも言える取り組みに市場全体がどのように反応を示していくのか、今後の動向に注目です。
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参考文献
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