AIとロボティクスで描く未来の農業、イチゴ自動栽培を実現するHarvestX
東京大学発スタートアップ株式会社HarvestX(以下、HarvestX)は、AIやロボティクス技術を駆使し、植物工場でのイチゴ栽培を完全自動化する世界初の授粉技術を実現しています。ハチを使用した従来の授粉方式が抱える課題を解消することで、安定した生産を可能にしています。
HarvestXが開発した授粉ロボット「XV3」を中核にしたこの技術は、持続可能な農業を実現する画期的なソリューションとして注目されています。事業内容や今後の展望について詳しく考察します。
植物工場の技術を通じて、持続可能な農業へ
HarvestXは、東京大学発のスタートアップであり、植物工場におけるイチゴをはじめとする授粉が必要な果菜類の完全自動栽培を実現することを目指しています。2018年に大学で結成され、ロボティクスやAIを専門とするメンバーが中心となり、「植物工場では授粉を必要とする果実の生産が困難」という課題に取り組んでいます。
その成果として、世界で初めてロボットを用いたイチゴの授粉に成功しています。「未来の世代に、豊かな食を。」というミッションを掲げるHarvestXは、最先端のロボティクスとAI技術を活用し、持続可能な農業の実現に向けたソリューションを開発し続けています。
完全自動授粉ロボットにより、安定したイチゴの通年栽培を実現
HarvestXは、植物工場におけるイチゴの生産プロセスにおいて、「植物管理」や「授粉」の完全自動化を実現することで、安定した生産体制を構築するソリューションを提供しています。さらに、2025年には「収穫」の自動化機能を追加予定です。ロボット、栽培ラック、栽培レシピをAI技術で最適化し、授粉とモニタリングを自動化することで、生産コストの削減と安定供給を可能にし、グローバル規模での普及を目指しています。
イチゴの育苗から授粉、収穫に至るまでの全プロセスをサポートし、栽培設備、ロボット、AI、運用システムを一体化したサービスの展開を行っています。
ソリューションの特徴は以下となっています。
- 通年で一定価格の高品質なイチゴを安定供給
- 味や色味にばらつきが少ない高品質イチゴの栽培と収穫
- 洗浄や検査工程の効率化により、食品工場内での生産が可能
また、授粉に関する独自技術において、数多くの開発を行っています。ミツバチの動きを詳細に解析し、それを基にしたアルゴリズムを構築し、AIやロボティクスの中核技術(特許第7090953号)に加え、素材選定や回転周波数調整、三次元認識といったノウハウの組み合わせにより、他社が模倣困難な技術的優位性を確立しています。
授粉ロボット「XV3」
「XV3」は、イチゴの自動栽培ソリューション「HarvestX」の中核を担うロボットであり、高精度な授粉技術と環境を管理するセンシング機能を活用することで、あらゆる地域や環境条件でのイチゴ生産を可能にしています。
このロボットは、自動走行を行う「XV3 Cart」と、データ収集用のセンサーや作業用ロボットアームを備えた「XV3 Unit」という2つのモジュールで構成されています。それぞれのモジュールは、植物工場運営者のニーズに応じて柔軟に機能を追加したり変更したりできるよう設計されており、イチゴ以外の果菜類にも対応することを目指し、将来の機能拡張にも対応可能です。
ハードウェア全体を大きく改修する必要なく、ロボットの性能を向上させることで、植物工場内のさらなる自動化を実現する柔軟性を備え、持続可能な農業を目指すさまざまな事業者のニーズに応えることが可能です。
農業市場の課題の解決に向けたロボット技術やAIの技術開発テクノロジー
HarvestXが保有しているテクノロジーをご紹介します。
ハチを模倣した高精度の受粉
ハチの生態を模倣することで、ハチに代わる授粉技術の開発に取り組んでいます。この技術は、ハチが植物と共生してきた歴史を参考にして設計されました。
具体的には、ハチが花の蜜や花粉を採取している場面を撮影した映像をもとに、ニューラルネットワークを用いてハチの骨格を推定し、そこから授粉動作の特徴を抽出します。この動作データを授粉アルゴリズムに応用することで、形状の整ったイチゴを作ることを目指した実験的なアプローチを実施しています。
こうしたロボット技術とアルゴリズムによる授粉および管理の導入により、作業の効率化だけでなく、イチゴの品質向上も可能にし、持続可能で高品質な生産を実現しています。
収量予測・成熟度分類
花や果実の成熟度に基づいた精密な収量予測システムの開発を進めています。各苗にどの程度の花が咲いているのか、果実がどの段階まで成長しているのかといったデータを統計的に分析し、自動授粉や収穫と連携して効率的で生産性の高い育苗環境の構築を可能にします。
この収量予測システムの実現に向け、すでに果実の成熟度を分類するアルゴリズムを開発しています。このアルゴリズムでは、イチゴを結実直後から収穫可能な状態まで、4つの成長段階に細分化して分類します。成熟度を正確にアルゴリズムで判定することで、人的判断のばらつきを排除し、最適な収穫時期を正確に見積もることができます。
ROS2 / シミュレーション
ROS/ROS2は、ロボットアプリケーションの開発を支援するために設計されたソフトウェアライブラリとツールのセットで、近年そのダウンロード数が急増しています。ソフトウェア間の通信インターフェースに統一されたルールを導入することで、ロボット開発の効率を飛躍的に向上させることを可能にしています。
HarvestXでは、現在約100種類のROS2パッケージを開発しており、この技術を活用して、多様な植物工場で発生する課題に対応可能なロボットを設計しています。ROS2インターフェースの柔軟性を活かし、さまざまな生産現場のニーズに適応したロボットソリューションの提供を行っています。
さらに、植物工場で直面する課題を安全かつ効率的にチームで解決するため、自社の作業現場を忠実に再現したシミュレーターを開発しています。このシミュレーターは、ロボットの開発やテストにおいて重要な役割を果たしており、現場での問題解決に向けた取り組んでいます。
法線ベクトル推定
めしべ全体に均一に花粉を付着させるには、授粉ブラシの接触方向を花の向きに正確に合わせる必要があります。しかし、従来の検出技術では、カメラ映像を利用して花の位置を特定することは可能でも、その花がどの方向を向いているのか、またどちらからブラシを当てるべきかまでは判断できませんでした。
この課題を解決するため、HarvestXは花の向きを正確に推定する機械学習技術の開発に取り組んでいます。具体的には、3Dモデルとそのレンダリング画像を活用して花の向きに関する教師データを生成し、人の顔の向きを検出するニューラルネットワーク技術を応用して花の向きを解析する技術を構築しました。
この新たな技術により、従来のハチでは実現できなかった高精度な授粉を可能にし、形の整った高品質なイチゴを安定的に生産できる植物工場の実現を目指しています。
「浜松ファーム」開業及び製品の導入
HarvestXが開発したイチゴの完全自動授粉ロボットによる栽培システムの世界初の商業利用第一号として、静岡県浜松市に本社を構える「うなぎパイ」の製造元である有限会社春華堂への導入が決定しました。本発表は、2024年11月8日(金)、浜松市にある「HarvestX」を搭載したパイロットプラント「浜松ファーム」で行われました。
この導入により、季節を問わず高品質なイチゴを安定して供給できる体制が整い、イチゴを活用した商品の製造と販売をさらに拡充することが可能になります。
2024年5月に浜松市と浜松いわた信用金庫の支援を受けて設立した「浜松ファーム」を拠点に、イチゴ生産で課題を抱える植物工場事業者や、新たにイチゴ植物工場の運営を計画している企業への提案を進め、本格的な市場展開を進めていくとのことです。
2024年3月、総額約4億1,000万円の資金調達を実施
2024年3月に、プレシリーズAラウンドで約4億1,000万円の資金調達を行ったことを発表しました。
現在、多くの果菜類を栽培する植物工場では、一般的な農場と同様にハチを使った花の授粉が行われています。しかし、閉鎖された空間である植物工場では、ハチがストレスを受けて正常に飛べなかったり、寿命が短くなったりする問題が生じ、生産の安定性が損なわれています。このような課題を解決するため、HarvestXは特に授粉の精度が果実の形状や品質に大きく影響を与えるイチゴに注目しました。授粉、成長データの収集、収穫までを一貫して行える高度な自動栽培技術を活用し、イチゴ栽培用のロボットを開発しています。この技術は世界初のものであり、特許(特許第7090953号)も取得しています。
自社のイチゴ栽培実験施設や協力企業の植物工場での導入実験を経て、今回ついに自動授粉ロボット「XV3」を中核としたイチゴ自動栽培システム「HarvestX」の提供を開始することが可能になりました。
HarvestXは、今回調達した資金を活用して「HarvestX」の技術開発をさらに推進し、付加価値を高める研究に取り組む予定です。また、「HarvestX」を設置したデモ施設(パイロットプラント)の建設も計画しており、イチゴ生産に課題を抱える植物工場事業者や新規参入を検討する企業への提案を強化していくとのことです。
このデモ施設の運用を起点に、まずはイチゴの一貫生産体制を確立し、将来的にはトマトやメロンといった他の果菜類への応用も視野に入れ、」さらなる事業拡大を目指します。
今後の展望
HarvestXが開発したロボット技術とAIソリューションは、農業界に新たな仕組みを実現する可能性を秘めています。これらの技術により、植物工場での効率化や多様な作物への応用、持続可能な農業モデルの実現が期待されています。以下では、具体的な今後の展望について考察します。
AIとロボティクスの進化による植物工場の完全最適化
AIとロボティクスの融合による植物工場の最適化は、今後の農業において中核的な役割を果たします。HarvestXの「XV3」ロボットは、授粉作業の完全自動化を実現するだけでなく、AIを活用して植物の成長データを詳細に分析することで、最適な栽培環境を提供します。このプロセスは、生産の安定性を向上させるだけでなく、従来手作業に頼っていた管理作業を効率化することへも今後繋がっていく期待されます。
具体的には、植物の葉の健康状態や土壌の栄養バランスをリアルタイムでモニタリングし、それに基づいた自動調整を行うことで、従来の試行錯誤型の農業からデータ駆動型の農業へと移行できます。さらに、AIを活用した気候変動対応モデルの開発も進んでおり、異なる地域や気候条件でも高品質な作物を安定して生産できる柔軟性が備わります。
将来的には、植物工場に必要なインフラ全体をデジタル化・自動化する方向に進化する可能性があり、ロボットが自動で稼働しながら収量予測を行い、必要なリソースを自動的に補充する完全無人の植物工場が実現するかもしれません。
技術の多用途展開と新しい農業モデルの提案
HarvestXの授粉ロボット技術は、イチゴに特化した設計から始まっていますが、将来的にはトマトやメロン、キュウリなど、他の果菜類への応用が期待されます。この多用途展開により、特定の作物に依存しない農業モデルの構築が可能となります。
例えば、トマトの栽培では、一定の湿度や温度管理が必要ですが、AIを用いた環境制御技術がこれを大幅に簡略化します。また、メロンのように形状や甘さが重要視される作物では、授粉と成長過程のデータ収集を強化し、収穫時期をより精密に予測できるアルゴリズムが重要となります。
さらに、都市型農業や室内農業における利用も進むと考えられます。都市部の高層ビル内や廃棄された工場を植物工場に転用することで、新たな農業モデルが確立されるでしょう。このモデルは、食料生産の地産地消を促進し、輸送コストの削減や新鮮な作物の供給を可能にします。
関連リンク
▼HarvestX株式会社 公式HP
https://harvestx.jp/
▼HarvestX株式会社 プレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/68367
Plus Web3は「Web3領域に特化したキャリア支援サービス」
Plus Web3では、Web3で働きたい人材と、個人に合わせた優良企業をマッチングする求人サービスを行っています。
- Web3で働くことも考えている…
- Web3のインターン先はどこがいいか分からない…
- どんな知識やスキルがあれば良いのか分からない…
このような悩みを抱える人は、一度「無料キャリア相談」にお越しください。あなたにマッチした優良企業をご紹介いたします。