「デジタル住民票NFT」とは?|一般的な住民票との違い、導入事例、メリットを紹介
地域の魅力発信やPRの手段として、「デジタル住民票NFT」の活用が開始されました。従来の一般的な住民票との違いやNFT保有者のメリット、導入する自治体のメリットを双方の視点から考察します。
「デジタル住民票NFT」とは?
デジタル住民票NFTとは、デジタル上で発行された住民票を購入した人が、該当自治体に住んでいなくてもその自治体のデジタル住民になれる仕組みです。購入者が法律上の住民になれるわけではありません。
この仕組みを実施している地方自治体は、関係人口の拡大や地域の魅力発信などを狙って、デジタル住民票NFTを発行しています。つまり、一般的な住民票は居住状況を公証するものに対して、デジタル住民票NFTは地域のPR手段の一つと言えます。
デジタル住民票NFT保有者は、各自治体に応じて様々な特典を受けることができます。具体的な特典内容については、事例を交えながら後述します。
デジタル住民票NFTには言葉通り、NFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)が用いられており、デジタル技術によって、「偽造」や「改ざん」が不可能で、所有権が保障されています。
NFTに関しては以下の記事で詳しく紹介しています。
デジタル住民票NFTの誕生経緯
デジタル住民票の誕生
デジタル住民票を世界で初めて導入したのは、バルト三国の一国「エストニア」だと言われています。国家としてデジタル社会化に力を入れているエストニアは、2014年に「e-Residency」というデジタル住民票プログラムを開始しました。
公式には、「Government-Issued Digital Identity:政府が発行したデジタルID」と呼ばれていますが、仕組みとしてはデジタル住民票に近いものだと言えるでしょう。
公式サイトでは以下のように説明されています。
エストニアのe-Residencyは、世界的な起業家に本国へのリモートアクセスを提供する政府発行のデジタルIDです。これにより、オンラインで安全に自分自身を認証し、最も安全で効率的な電子署名を使用して文書に署名できるようになります。さらに、どこからでもオンラインのみで会社を立ち上げることができます。(筆者翻訳)
引用元:https://www.e-resident.gov.ee/ 引用元:e-Residency(エストニア共和国)公式サイト
また、このデジタルIDを取得することで以下の事項が可能であると説明されています。
・世界中のどこからでも場所に固定されない会社をオンラインで設立および管理
・信頼できるEU企業を1日でオンライン設立
・設立した企業をオンラインのみで管理
・ビジネス用銀行口座を申請し、安全な電子バンキングの実行
・国際決済サービスプロバイダー (Paypal、Braintree など) へのアクセス
・文書へのデジタル署名と送信
・エストニアの税金をオンラインで申告(筆者翻訳)
引用元:https://e-estonia.com/solutions/e-identity/e-residency/ 引用元:e-Residency(e-Estonia)公式サイト
以上より、エストニアのe-Residencyは、以下の効果が期待できる仕組みです。
- 国全体で力を入れているデジタル社会の実現に貢献できる
- 国の強み(デジタル社会に対する取り組み)をより強化できるとともに、その取り組みを世界にアピールできる
- エストニア自体の知名度、存在感を向上させる
現時点でこの仕組みには、世界170か国以上から10万人がデジタル住民として登録しており、デジタル住民によって設立された企業数は2.5万社以上に及びます。(参考先:e-Residency(エストニア共和国)公式サイト)
日本での事例
新潟県長岡市の山古志地域
エストニアのe-Residencyに影響を受けてプロジェクトを立ち上げたのが、新潟県長岡市の山古志地域/旧山古志村(以下:山古志)です。
高齢化による人口減少が問題となっている山古志では、その地域に本社を置く「株式会社クリプトヴィレッジ」が、地域への関係人口を増やすために2021年12月、デジタル住民票を付与したNFTの販売を開始しました。
2023年8月時点で、山古志は800人ほどの人口に留まっていますが、デジタル住民の数は1,000人を超えており、日本だけでなく、アジアや欧州など世界中の人々がデジタル住民票NFTを保有しています。(参考先:JBpress「NFT×デジタル住民票で関係人口を増やせ!旧山古志村で始まる新しい地域再生」)
山古志は錦鯉発祥の地と言われています。地域の強み「錦鯉」を活かすため、本プロジェクトでは和風の錦鯉がデザインされたNFTにデジタル住民票が付与されています。そのアート性に魅了されてNFTを購入した外国人デジタル住民もいることでしょう。
Xの公式アカウントでは、2024年4月時点で4,500人以上のフォロワーがいます。(公式Xリンク:https://twitter.com/nishikigoiNFT)
このデジタル住民票NFTの保有者が享受できる特典、および実際に行われた内容としては以下のものがあります。
- デジタル住民と地域住民の間で村づくりに関するディスカッションを実施
- 「山古志デジタル村民総選挙」と題し、山古志やNFTプロジェクトのアイデアプランを募集し、デジタル住民の投票で方針決定
つまり、このプロジェクトでは以下の効果が考えられるでしょう。
- デジタル住民票NFT保有者は、自らの意思を反映させながら山古志を応援できる
- 山古志は地域おこしに関する多様なアイデアを集めることができる
- 山古志は地域の特徴や魅力を世界中に発信できる
山形県西川町
日本で初めて自治体が発行するデジタル住民票NFTとして注目を集めているのが、山形県西川町のプロジェクトです。
西川町は、「デジタル田園都市国家構想」と名付けられた「デジタルの力で地方の課題を解決し、心豊かな暮らしを実現させる取り組み」に力を入れている自治体の一つです。デジタル住民票NFTもその取り組みの一部として実施されています。
本プロジェクトでは、2023年4月に1個当たり1,000円で1,000個のデジタル住民票NFTを販売しましたが、町人口の2.8倍である13,440件からの申し込みがあり、即完売するほどの人気ぶりでした。(参考先:産経新聞「住民票の「奪い合い」を超えて 関係人口増へ「デジタル住民票」」)
このデジタル住民票NFTの保有者が受け取れる特典としては、以下の通りです。
- 町長も参加するオンラインコミュニティに参加し、メタバース空間などで交流を楽しめる
- 地域の温泉への入浴無料券、特産の天然水プレゼント ※いずれも一定の条件あり
本プロジェクトによる効果としては、以下が考えられるでしょう。
- 西川町は、「デジタル田園都市国家構想」を推し進めているとアピールできる
- 自治体関係者とデジタル住民票NFT保有者が交流する、新たな形式のコミュニティを構築できる
- デジタル住民票NFT保有者は、特典を享受できる
デジタル住民票NFTのメリット
以上の導入事例を踏まえて、デジタル住民票NFT保有者と自治体それぞれのメリットは以下の通りです。
デジタル住民票NFT保有者のメリット
・NFTと特典の取得
・オンラインコミュニティへの参加
・自治体の取り組みに自身の考えを反映できる
NFTと特典の取得
デジタル住民票NFT保有者のメリットとして挙げられるのが、限定のNFTや特典を受け取れる点です。
第一に、デジタル住民票NFTは該当NFTを購入することでしか取得できないので、保有する価値があります。
またそれに付随して、西川町のように、特別なクーポンやプレゼントが貰えることも多々あります。
オンラインコミュニティへの参加
デジタル住民票NFTを保有することによって、特別なオンラインコミュニティへ参加できるメリットがあります。
山古志、西川町の事例では、コミュニケーションアプリやメタバース上の専用グループでオンライン交流ができ、新たなコミュニティの構築に貢献しています。
それらに参加することで、新たな発見やマッチングがあることも期待できます。
自治体の取り組みに自身の考えを反映できる
デジタル住民票NFTを保有すると、該当自治体の取り組みに自らの考えを直接反映できる機会があります。
実際に山古志の事例では、「山古志デジタル村民総選挙」にてデジタル住民がアイデアプランを応募し、自分たちの投票で今後の村づくり方針を決定できる権利がありました。
西川町の事例においても、町長が参加するオンラインコミュニティに参加できるため、自らの考えを直接自治体に伝えられるメリットがあります。
自治体のメリット
・プロモーション効果
・魅力/強みのさらなる強化
・多様なアイデアの獲得
プロモーション効果
自治体はデジタル住民票NFT導入によって、プロモーション効果の向上が見込めます。
デジタル住民票NFTは、その名の通り、デジタル上で発行できるので、場所や所属を問わず世界中に自治体の魅力をアピールできる機会があります。
実際にエストニアや山古志の事例では、海外の人にも国や地域の魅力を伝える手段として、デジタル住民票NFTが一役買っていると分かります。
魅力/強みのさらなる強化
デジタル住民票NFTは、地域・自治体の魅力や強みをさらに強化することにつながります。
例えば、エストニアは国家の取り組み「デジタル社会化」、山古志は地域の魅力「錦鯉」、西川町は自治体の取り組み「デジタル田園都市国家構想」、というようにそれぞれの魅力や強みが、デジタル住民票NFTによってさらに増強しているといえるでしょう。
多様なアイデアの獲得
デジタル住民票NFTは、自治体がより多様で多角的なアイデアを獲得できるメリットをもたらします。
代表的な例は、山古志のプロジェクトです。山古志では、デジタル住民票NFT保有者も交えて村づくりの話し合いを行うことで、客観的な意見や、村には少ない若者・デジタル人材の意見獲得に成功しました。
このようにして、多様な意見を取り入れていくことが今後の地域振興につながるでしょう。
まとめ
デジタル住民票NFTは、従来の一般的な住民票とは違い、地域・自治体の魅力を伝えるためのプロジェクトであるといえます。
デジタル住民票NFTには、自治体のアピールをすることでより多くの人に地域を知ってもらい、「自治体とNFT保有者を“つなぐ”」役割があるのではないでしょうか。
エストニアの事例を出発点としても、まだ10年ほどしか経っていない取り組みであるため、今後のさらなる発展が期待される技術です。
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