農林中央金庫グループは、デジタル証券(ST)事業への初参入を発表した。
SBI証券やケネディクスなどと協業し、ブロックチェーン基盤「Progmat」を使った不動産STの組成を目指す。農中信託銀行が受託業務を担い、個人投資家への商品提供につなげる方針だ。
農中信託銀行がST受託へ、5社の役割を分担
2026年11月5日に発表された今回の協業には、農林中央金庫の完全子会社である農中信託銀行、ケネディクス(KDX)、KDX STパートナーズ(KST)、SBI証券、Progmat社の5社が参加する。
農林中央金庫グループとして初めてST事業に参入し、不動産を対象とした案件化を企図している。
農中信託銀行は、受益証券発行信託の受託者として信託財産と受益権原簿を管理する。
KDXはスポンサー兼アレンジャーとして対象不動産の供給とスキーム組成を担い、KSTが組成後の資産運用や投資家向け情報開示を担当。SBI証券はSTの引受・販売を担い、個人投資家への提供を進める。
Progmat社は農中信託銀行とSBI証券に「Progmat SaaS」を提供する。同サービスは、金融機関が自社サーバーにブロックチェーンのノードを設置せずに原簿管理やカストディ業務(※)を始められる仕組みだ。
証券会社が投資家の秘密鍵を外部の管理業者に預けず、自社で管理することも可能となる。
各社には協業の実績がある。KDXとProgmat社は2021年7月に国内初の公募型不動産STで連携し、農中信託銀行も2025年4月にProgmat社へ出資した。
さらにKDX、KST、Progmat社は2026年7月、パブリックブロックチェーンとステーブルコインを活用した新たなSTスキームを共同発表している。
※カストディ業務:投資家が保有する有価証券やデジタル資産などを保管・管理する業務。デジタル証券では、ブロックチェーン上の資産移転に必要な秘密鍵の管理なども重要となり、資産の安全性を確保する役割を担う。
投資機会の拡大に期待、流動性確保が課題
今回の枠組みが機能すれば、機関投資家向けに偏りがちだった資産へのアクセスが、個人投資家にも広がる可能性がある。
とりわけ販売網を持つ証券会社と信託機能を担う銀行が連携する意義は大きい。投資商品の選択肢が増えれば、資産形成ニーズの多様化にも応えやすくなるだろう。
事業者側にも利点がある。共通のSaaS基盤を使うことで、ブロックチェーン関連の設備を個別に整える負担を抑えられる。
既存の業務フローを活用できれば、参入企業の増加や案件組成の効率化にもつながりうる。
将来的には、不動産以外の金融資産や農林水産業に関連する資産への応用も視野に入る。
一方、デジタル化自体が投資リスクを減らすわけではない。不動産価格や収益の変動に加え、売却したいときに買い手が見つかるとは限らず、流動性の確保が普及の条件となる。
複数社が業務を分担するため、情報開示や管理責任を明確にすることも欠かせない。
今後は初の不動産STを実際に組成できるか、その商品が投資家に受け入れられるかが試金石となる。
既存金融機関の信頼性とデジタル基盤の利便性を両立できれば、ST市場の裾野が広がる可能性がある。
関連記事:
三井住友銀行ら8社、ST二次流通でDvP実証完了 SC活用を検証

MUFG、大阪堂島浜タワーをデジタル証券化 224億円の不動産ST発行完了

山陰合同銀行がデジタル証券発行検討 地域の資金調達モデル構築へ
