2026年10月30日、国内の富士通は、サイバー攻撃などのインシデント発生時に、AIによる脅威分析とセキュリティ専門家による対応支援を組み合わせた新サービスの提供を開始した。24時間365日の調査体制と専門家の知見を活用し、被害状況の把握から復旧に向けた意思決定までを支援する。
AIと専門家の連携でインシデント調査を迅速化
今回のサービスは、フロンティアAIを活用した脅威分析AIシステムと、富士通のセキュリティ専門家による対応支援を組み合わせたリテーナーサービスである。企業は専用ポータルを通じて、不審なファイルや調査対象端末のデータをアップロードすることで、24時間365日いつでもAIによる調査・分析を開始できる。
主な機能は、端末データから侵入の痕跡や被害状況を調べるフォレンジック調査(※1)と、マルウェアや不審なURLなどを解析する脅威解析の2つだ。AIが調査した結果は富士通のセキュリティ専門家が検証・補完し、侵入の痕跡や不審な挙動、推奨される対応策などをまとめた調査報告書として提供する。
報告書の提供期間は、脅威解析が調査依頼から最短1営業日、フォレンジック調査が最短2営業日となる。従来は高度な専門知識を持つ人材が担っていた調査・分析の一部をAIで効率化することで、インシデント発生後の状況把握にかかる時間を短縮する狙いだ。
さらに、調査によって被害が広範囲に及ぶ可能性が判明した場合などには、富士通のインシデント対応チームが詳細な調査や緊急対応を支援する。トリアージ調査(※2)やログ調査を実施し、被害拡大の防止から復旧に向けた対応策の提案・実施までを担う。専門家による支援は一定時間まで基本料金に含まれ、必要に応じて追加できる仕組みである。
背景には、AI技術の発展に伴うサイバー攻撃の高速化がある。侵入から被害発生までの時間が短くなる一方、専門人材の確保や24時間対応できる社内体制の維持は企業にとって大きな負担となっている。富士通はこうした課題に対し、AIと専門家の役割を組み合わせることで対応力の強化を図る。
※1 フォレンジック調査:端末やサーバーなどに残されたデジタルデータを分析し、不正アクセスの経路や被害状況、原因を特定する調査手法。
※2 トリアージ調査:インシデントの緊急度や影響範囲を評価し、優先して実施すべき対応や調査を判断する作業。
AIによる初動対応の効率化で企業の復旧力向上へ
今回のサービスの意義は、サイバー攻撃への対応を専門人材の経験や社内体制だけに依存しない仕組みを提供する点にある。AIによる一次分析を24時間365日利用できるため、企業はインシデント発生時に調査の開始を専門家の稼働状況だけに左右されずに進められる。特に、夜間や休日に発生した攻撃への対応力を高める効果が期待できるだろう。
また、AIの分析結果を専門家が検証する二段階の仕組みも重要だ。AIだけに調査を任せる場合、誤検知や見落としによって対応方針を誤るリスクがある。一方、専門家が分析結果を補完することで、調査の効率性と判断の信頼性を両立させることを目指している。
企業側にとっては、高度なセキュリティ人材を自社で常時確保する負担を抑えながら、インシデント発生時の専門的な支援を受けられる点がメリットとなる。さらに、被害状況の把握が早まれば、システムの隔離や復旧などの判断を迅速化し、事業停止による損失を最小限に抑えられる可能性もある。
一方で、AIによる調査の精度や、専門家による検証にどこまで時間を要するかは、実際の運用において重要な評価項目となる。調査対象となるデータの品質やインシデントの複雑さによっても、対応に必要な時間は変わると考えられる。
富士通は今後、サイバーセキュリティ戦略の中核を担うバーチャル組織「Cyber Security Nerve Center」のもとで本サービスを強化する方針だ。AIによる分析能力と専門家の知見を組み合わせたサービスが普及すれば、企業のセキュリティ対策は攻撃の予防だけでなく、被害発生後の迅速な復旧を重視する方向へ進むだろう。