2026年11月2日、米OpenAIは、大規模なソフトウェア開発を支える新たなGit基盤「Pando」を紹介した。AIエージェント「Codex」の普及によって増加する同時並行の開発処理に対応するため、Gitとの互換性を維持したままバックエンドを刷新。プッシュ遅延の中央値を従来の約5分の1に短縮し、1日あたり約1ペタバイトのGitデータを配信している。
OpenAI、Git互換の新基盤「Pando」で開発処理を高速化
Pandoの開発背景には、Codexによる開発規模の急拡大がある。エンジニアが複数の変更を同時に進めるようになったことで、ブランチの作成やプッシュ、マージに加え、開発環境やCI(※)からのフェッチ、クローンも増加した。1回のプッシュを契機に複数のジョブが同じコミットを取得するなど、ソース管理システムへの負荷が急激に高まっていたのである。
従来のシステムでは、フェッチやプッシュの遅延、マージの失敗が発生し、信頼性が90%を下回ることもあった。そこでOpenAIは、開発業務を中断せず、エンジニアやAIエージェントの既存ワークフローを変更することなく利用できる新しいバックエンドとしてPandoを構築した。
設計上の特徴は、書き込みと読み取りの双方を水平スケーリングできる点にある。書き込みでは、異なるブランチへの更新を独立して処理し、無関係なプッシュ同士が待ち合う状況を抑制する。一方、読み取りでは、複数のクライアントに対してパックファイルを再利用し、同じデータを効率的に配信する仕組みを採用した。
さらに、Gitプロトコルとクライアントとの互換性を維持したことで、既存の開発環境をそのまま利用できる。実際の本番環境では、プッシュのレイテンシー中央値が約5分の1となり、現在は1日あたり約1ペタバイトのGitデータを配信する規模に達している。
※CI:継続的インテグレーションの略。ソースコードの変更を自動的にビルド・テストし、開発品質を維持する仕組み。
因果整合性でAI開発を拡張 高速化の一方で読み取りには制約も
Pandoの高速化を支えるもう一つの重要な要素が、因果整合性を採用したデータ管理方式である。従来の分散Gitシステムでは、リポジトリ全体の参照更新を一元的に調整するため、異なるブランチへの書き込みでも競合が発生しやすかった。Pandoはこの制約を見直し、個々のブランチについて更新順序を保証しながら、リポジトリ全体では厳密な同時点の整合性を要求しない設計とした。
これにより、複数のブランチへのプッシュを並行処理できる一方、複数ブランチを同時に読み取る場合、それぞれ異なる時点の状態が返される可能性がある。つまり、書き込み性能を高める代わりに、リポジトリ全体を一つの時点で捉える整合性を緩和したのである。
この設計は、AIエージェントが大量の変更を独立して進める開発環境と相性がよい。Codexのようなエージェントが多数のタスクを並行実行するほど、ソース管理基盤には従来以上の書き込み性能とデータ配信能力が求められるためだ。
一方で、参照間の整合性が必要となる処理では、読み取り結果の違いを考慮した設計が欠かせない。また、Pandoの性能を実現する仕組みが、異なる開発環境や運用規模でも同様に機能するかは今後の検証課題となる。
OpenAIは、自社のGit環境で実施した改善を外部コミュニティにも還元する方針を示している。Pandoの取り組みは、AIによる開発の自動化だけでなく、それを支えるソフトウェア開発基盤そのものの再設計が重要になることを示していると言える。