2026年7月16日、Sakana AIはNVIDIAとの協力を広げ、NVIDIAのオープンモデル「Nemotron」を、複数のAIを連携させる「Sakana Fugu」に組み込む計画を発表しました。Fuguは、依頼に合うAIを選び、それぞれの得意な力を組み合わせて一つの回答にまとめる仕組みです。
今回の協業では、Nemotronが得意とするプログラム作成やツール操作と、NVIDIAの高速な計算環境を生かします。特定のAIや提供会社だけに頼らず、用途に応じてモデルを選べる環境を日本から世界へ広げる取り組みのため、本プロジェクトの詳細を考察します。
一つの大きなAIから、得意分野を持つAIのチームへ
これまでのAI開発では、一つのモデルをより大きくし、多くの知識や能力を持たせる方法が広く取られてきました。しかし、実際の仕事で求められる能力は一つではありません。文章を読み取る力、情報を調べる力、プログラムを書く力、結果が正しいか確かめる力など、作業によって必要な力は変わります。
どれほど高性能なAIでも、すべての分野で常に最も良い結果を出せるとは限りません。そこでSakana AIが進めているのが、得意分野の異なる複数のAIを協力させる方法です。人のチームが担当を分けて仕事を進めるように、依頼に合うAIを選び、互いの弱い部分を補います。
この考え方の利点は、新しいAIが登場したときに、その力をチームへ加えやすいことです。中心となる仕組みを保ちながら、より良いモデルへ入れ替えたり、必要な能力を追加したりできます。AIの進歩が速い中でも、特定の一つのモデルだけに頼らず、幅広い技術の進歩を取り込める点が特徴です。Sakana AIとNVIDIAの協業は、モデルの大きさだけを競うのではなく、複数のAIを上手に協力させる新しい道を示す取り組みといえます。
参照:Sakana AI「Sakana AIがNVIDIAと提携し、日本発のオープンモデルイノベーションを推進」
Fuguが複数のAIを一つのチームとして動かす仕組み
Sakana Fuguは、複数のAIをただ並べるだけのサービスではありません。利用者から依頼を受けると、どのAIに何を任せるかを考え、作業の途中経過を確認し、最後に一つの回答へまとめます。利用者は、裏側で何種類のAIが動いているかを細かく意識する必要がありません。ここでは、Fuguが仕事を進める流れを3つの視点から紹介します。
依頼に合うAIを選びます
Fuguは依頼を受けると、まず作業の内容や難しさを見ます。一つのAIで対応できる内容であれば、そのまま処理を進めます。調査や分析、プログラム作成など、複数の力が必要な場合は、得意分野の異なるAIを呼び出します。
これは、会社の受付担当者が相談内容を確認し、内容に合う専門部署へ仕事を振り分ける流れに似ています。利用者が「この部分はこのAIに任せる」と細かく決めなくても、Fuguが依頼に合う担当を選びます。
新しい版のFuguにNemotronが組み込まれれば、プログラム作成や外部ツールの操作、指示に沿った処理なども選択肢に加わる予定です。すべての仕事を同じAIに任せるのではなく、その場に合う力を選ぶことで、正確さ、処理の速さ、利用にかかる費用のバランスを取りやすくなります。
複雑な仕事を分けて進めます
難しい仕事では、最初から最後まで一つのAIに任せるよりも、作業をいくつかに分けた方が進めやすくなります。たとえば、計画を立てる役割、情報を集める役割、プログラムを書く役割、結果を確かめる役割に分ける方法です。
Fuguは、必要に応じて複数のAIへ作業を分け、それぞれの結果を受け取りながら次の動きを決めます。決められた順番をそのまま繰り返すのではなく、途中の結果を見ながら、別のAIへ任せるか、さらに確認を続けるかを判断します。場合によっては、Fugu自身をもう一度呼び出して考え直すこともあります。
こうした仕組みにより、調査、整理、確認、報告といった複数の段階がある仕事にも対応しやすくなります。集めた回答をそのまま並べるのではなく、内容を確かめながら一つの回答に整える点がFuguの特徴です。
一つの窓口から利用できます
複数のAIを自社で連携させようとすると、それぞれの接続方法を用意し、どのAIにどの仕事を任せるかを設定する必要があります。利用するAIが増えるほど、管理や調整にかかる手間も大きくなります。
Fuguは、AIの選択、仕事の受け渡し、結果の確認、回答の作成までを内部で管理します。利用者は一つの窓口へ依頼するだけで、複数のAIが協力する仕組みを使えます。FuguとFugu Ultraは、2026年6月22日からすでに一般向けに提供されており、一つのAPIを通じて利用できます。
通常版のFuguでは、会社のデータ管理やプライバシーの決まりに合わせ、使いたくないAIを候補から外すこともできます。高度な仕組みを利用者から見えにくい形にまとめることで、複数のAIを使ったサービスを日々の業務へ組み込みやすくしています。
Nemotronの参加で企業のAI活用が広がります

今回の協業では、NVIDIAのオープンモデルであるNemotronを、今後公開されるFuguの新しい版に専門的な役割を持つAIとして組み込む予定です。Fugu自体はすでに一般提供されていますが、Nemotronとの連携については、これから具体的な技術作業と評価が進められます。ここでは、Nemotronが加わることで期待される変化を3つに分けて紹介します。
プログラム作成やツール操作を任せやすくなります
Nemotronは、プログラムの作成、計算、理由を考える作業、外部ツールの呼び出し、細かな指示に沿った処理などを得意とするモデルの集まりです。こうした力がFuguの選択肢に加わることで、文章を作るだけではなく、複数の手順を含む仕事への対応が広がると考えられます。
たとえば、システム開発では、仕様を読み取ってプログラムを作り、問題がないか確認する流れを助ける使い方が考えられます。社内業務では、必要な情報を探し、表へまとめ、決められたツールへ入力するといった仕事にも応用できるでしょう。
ただし、これらの使い方が今回の協業でそのまま提供されると決まったわけではありません。Nemotronの得意な力を、Fuguの中でどこまで安定して生かせるかは、今後のテストと改善によって確かめられます。
会社の事情に合うAIを選びやすくなります
Nemotronでは、AIが学習した結果を表すデータだけでなく、学習に使ったデータや開発方法も公開されています。開発者は内容を確認し、必要に応じて用途に合う形へ調整できます。
企業でAIを使う場合、一般向けのモデルをそのまま導入するだけでは、十分に対応できないことがあります。製造、金融、医療、公共サービスなどでは、業界特有の言葉や社内ルールがあるためです。公開されているモデルを使えば、自社の仕事に合う形へ調整したり、データを置く場所に合わせて動かしたりする方法を考えやすくなります。
また、一つのサービスだけにすべてを任せるのではなく、仕事ごとに異なるAIを選ぶ余地も広がります。実際に利用する際は、選んだモデルごとに最新の利用条件やライセンスを確認する必要がありますが、選択肢が増えることは、費用や管理方法を考えるうえでも役立ちます。
実際の利用結果を改善へ生かせます
NemotronをFuguへ組み込んだ後は、Sakana AIとNVIDIAが協力し、複数のAIが動く仕事の中でNemotronがどのような結果を出すかを確かめる予定です。NVIDIAは、Nemotronの使い方や評価に関する技術的な知識を提供し、Sakana AIはFuguの中での動きを継続して確認します。
一つのAIだけを試すテストでは、単独で質問に答える力は分かります。しかし、実際の仕事では、ほかのAIやツールと情報を受け渡しながら作業を進める場面もあります。その中で、どの仕事に向いているか、どこで間違いやすいか、どのAIによる助けが必要かを確認することが重要です。
そこで得られた結果は、Nemotronだけでなく、FuguがAIを選ぶ方法の改善にも使われる予定です。実際の利用から得られた気づきを双方へ戻すことで、モデルと連携の仕組みを一緒に育てていく流れが作られます。
日本の言葉や産業に合うAIを世界へ届けます
今回の協業には、海外で作られたAIを日本で利用するだけではなく、日本の言葉や産業、公共サービスの事情に合うAIを育てやすくする意味もあります。AIに求められる答えは、使う国や仕事によって変わります。日本語を正しく理解し、国内の制度や仕事の流れに合った支援を行うには、日本の利用者や開発者が中身を確認し、必要に応じて手を加えられる環境が大切です。
NVIDIAは、日本の企業、大学、研究機関がNemotronのモデルやデータを使い、日本語や国内産業に合うAIの開発を進めていると発表しています。東京科学大学による日本語モデルの開発や、通信、製造、エネルギー、公共分野での活用例も紹介されています。
オープンモデルは、特定の会社だけが技術を管理するのではなく、さまざまな国や組織が開発に参加しやすい点が特徴です。日本で生まれた研究や産業の知識をAIへ生かし、その成果を世界へ広げることもできます。一方で、海外で生まれた優れたモデルを日本の課題へ取り入れる動きも進めやすくなります。
Sakana AIは、日本で生まれた複数のAIを協力させる考え方を、NVIDIAのモデルや計算環境と組み合わせようとしています。今回の提携は、日本専用のAIを閉じた形で作るのではなく、日本から世界のオープンAIの発展へ参加するための取り組みと捉えられます。
今後の展望
FuguとNemotronの連携が進めば、複数のAIを使う技術だけでなく、企業がAIを選び、確かめ、長く使い続ける方法も変わると考えられます。ここからは公式発表の内容をもとに、今後考えられる活用方法を3つの視点から紹介します。
AIの評価が、単体の点数から仕事全体へ変わります
これまでAIの性能を比べるときは、質問にどれだけ正しく答えられるか、計算やプログラムの問題をどれだけ解けるかといった試験結果がよく使われてきました。しかし、複数のAIが協力して仕事を進める場合、一つのAIの点数だけでは、実際の使いやすさを十分に判断できません。
企業で重要になるのは、依頼を受けてから作業を終えるまでの流れです。必要な情報を正しく探せたか、適切なツールを使えたか、別のAIへ仕事を渡すときに情報が抜けなかったか、決められた時間や費用の中で終えられたかなどをまとめて確認する必要があります。
たとえば、問い合わせ対応であれば、回答文の自然さだけを見ても十分ではありません。顧客の質問を正しく理解し、社内資料から必要な情報を探し、会社の決まりに合う回答を作り、対応が難しい場合は人へ引き継ぐところまで確認する必要があります。
Sakana AIとNVIDIAは、NemotronをFuguへ組み込んだ後、複数のAIが動く仕事の中で性能を確かめ、その結果を双方の改善へ使う方針です。NVIDIAはNemotronのモデル、学習データ、開発方法を公開しており、今回の協業では評価に関する技術的な知識も提供する予定です。
AIが止まったときに備える仕組みが作りやすくなります
企業がAIを日々の業務へ深く取り入れるほど、利用中のサービスが止まったときの影響は大きくなります。問い合わせ対応、社内検索、資料作成、システムの確認などを一つのAIだけに任せている場合、そのAIが使えなくなると仕事も止まるおそれがあります。
Fuguは、特定の一つのモデルに固定されず、複数のモデルを使い分ける考え方で作られています。あるモデルが利用できなくなった場合でも、条件に合う別のモデルへ切り替えやすい設計です。Nemotronも、クラウド、会社のデータセンター、端末に近い環境など、利用目的に合わせた場所で動かせるように用意されています。
この特徴を生かせば、通常時に使うAIとは別に、問題が起きたときの予備のAIを用意する運用が考えられます。高い性能が必要な仕事では複数のAIを使い、障害が起きたときには機能を絞ったモデルへ切り替えます。外部サービスへ接続できない場合は、社内で動かせるモデルを使い、必要な業務だけを続ける方法も考えられます。
ただし、AIを複数用意するだけでは十分ではありません。どのような問題が起きたら切り替えるのか、予備のAIにどこまで任せるのか、どの段階で人が対応するのかを事前に決める必要があります。定期的に切り替えの確認を行い、担当者が迷わず対応できるようにすることも大切です。
オープンモデルを使いこなす人材が日本で育ちます
今回の協業は、完成したAIを利用する人を増やすだけでなく、AIを選び、仕事に合わせて調整し、安全に運用できる人材を育てるきっかけにもなり得ます。Nemotronでは、モデルだけでなく、学習データ、開発方法、利用例なども公開されています。そのため、開発者や研究者は、AIがどのように作られているかを学びながら、自分たちの目的に合う形へ調整できます。
これからのAI人材には、大きなモデルを一から作る技術だけが求められるわけではありません。複数のAIを比べる力、仕事を細かな手順に分ける力、AIに任せる部分と人が確認する部分を決める力も必要になります。技術者だけで進めるのではなく、営業、製造、法務、経理などの担当者が加わり、現場に合う使い方を一緒に考えることが重要です。
今後は、企業や大学が公開されたモデルや開発資料を教材として使い、実際の仕事に近い課題を扱う学習を進めることも考えられます。製造業では機械の点検記録を整理するAIを試し、自治体では制度の案内を助けるAIを作るなど、身近な課題を通じて設計や運用を学ぶ方法です。
NVIDIAは、Nemotronを使った開発資料や実際の作り方を示す例を公開しています。また、日本では大学や企業がNemotronを使い、日本語、通信、製造、エネルギーなどに合うモデルやサービスの開発を進めています。こうした事例が増えれば、成功した方法だけでなく、うまくいかなかった理由も国内にたまります。