2026年6月11日、大塚食品は、味やレシピを予測する独自AIシステム「おいしさLENS」を開発し、「ボンカレー」での活用を開始したと発表した。熟練研究員の知見や過去の試作データを資産化し、長年親しまれてきた味の継承と開発効率の向上を目指す取り組みである。
AIで「ボンカレーの味」を可視化
大塚食品の琵琶湖研究所は、味とレシピを学習・予測する独自AI「おいしさLENS」を開発し、ボンカレーの製品開発で活用を開始した。発売から58年を迎えるロングセラーブランドの味を次世代へ継承することが主な狙いだ。
開発の背景には、少子高齢化や人手不足による技術継承の課題がある。研究員が長年積み重ねてきた試作や判断の多くは個人の経験に依存しており、世代交代によるノウハウ消失が懸念されていた。また、気候変動や地政学リスクによる原材料調達環境の変化も、品質維持を難しくする要因となっている。
同社はまず、味を評価する官能評価(※)の基準を統一した。ボンカレーゴールドのおいしさを表現する218のフレーズを整理し、約1,000食の試作を通じて16種類の評価属性を定義。これにより、従来は感覚的だった味の評価を数値データとして蓄積できるようになった。
さらに、約40年分・数十万ページに及ぶ開発資料をAI OCRで電子化し、試作レシピや評価データを統合したデータベースを構築した。おいしさLENSはこれらの情報を学習し、味やレシピを予測する。モデル検証では、熟練研究員の感覚と一致するだけでなく、新たな試作案の提示も確認されたという。
また、原材料ごとの重要度を数値化し、「ボンカレーらしさ」にどの材料がどの程度影響しているかを可視化できる。原料変更が必要になった場合でも、味への影響を予測しながら代替案を検討できる仕組みとなっている。
※官能評価:人が実際に食品を試食し、味や香り、食感などを評価する手法。食品開発や品質管理で広く利用されている。
食品開発の継承と効率化を加速する可能性
おいしさLENSの意義は、味の予測精度そのものにとどまらず、熟練研究員の経験や判断をデータとして蓄積し、組織全体で活用できる点にあると考えられる。食品業界では担当者ごとの暗黙知に依存する場面が多く、今回の取り組みは技術継承の新たなモデルとなる可能性がある。
また、原材料価格の上昇や供給不安が続く中、代替原料を活用しながら品質を維持する重要性は今後さらに高まるとみられる。AIによるレシピ予測は、試作回数の削減や開発期間の短縮につながる可能性があり、研究開発の効率向上に寄与することも期待される。
一方で、食品のおいしさは文化や個人の嗜好、食体験など、数値化しにくい要素にも左右されると考えられる。AIが有力な判断材料を提示できたとしても、最終的な味づくりには研究員の感覚や創造性が引き続き重要になるだろう。
大塚食品は今後、味覚センサーや香りセンサー、食感測定機器などのデータも取り込み、おいしさの可視化をさらに進める方針としている。ただし、こうした取り組みがどの程度他ブランドへ展開されるかは現時点では明確ではなく、食品業界における研究開発DXの先行事例として注目される可能性がある。
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