東京都、全都立校にAI導入 教育に生成AI「都立AI」活用

東京都は2025年5月12日、全256校の都立学校に生成AIサービス「都立AI」を導入すると発表した。開発はコニカミノルタジャパンが担当し、約14万人の児童・生徒がAIを活用した新たな学習環境へ移行する。

教育現場で本格稼働する「都立AI」 先行研究の成果と最新モデルの導入背景

都が発表した生成AIサービス「都立AI」は、テキストと画像による入力に対応するチャット機能を備え、作文や資料作成を支援するプロンプトテンプレート機能も搭載する。
不適切な発言や内容を自動でフィルタリングするセーフティ設計も施されており、入力データは学習用途に使われない仕様でプライバシーと安全性を確保している。

開発元のコニカミノルタジャパンは、米OpenAIの「GPT-4o-mini（※）」以上のモデルに対応した設計を行っており、今後も最新モデルへのアップデートを予定している。

東京都は2023年度に9校、2024年度には20校を「生成AI研究校」として指定し、AI活用の効果検証を進めてきた。その実績とフィードバックが、今回の全校導入の判断材料となったようだ。

こうした背景には、東京都が掲げる「2050東京戦略」がある。
将来の都市像を描く中で、教育分野におけるデジタル活用は柱の一つに位置づけられており、生成AIの全面導入はその実行段階に入った象徴といえる。都はAI導入により、生徒の思考力や表現力を高めるだけでなく、教職員の事務作業の効率化によって教育現場全体の質的転換を図る構えだ。

※GPT-4o-mini：OpenAIが開発した最新の大規模言語モデルの軽量版。高精度な応答能力を保ちつつ、動作の軽さと応答スピードが向上している点が特徴。

「AI×教育」が描く未来 今後の展望と課題

生成AIの教育現場導入は、単なる業務効率化にとどまらず、学びそのものの再定義へとつながる可能性を秘めている。都立AIの活用は、従来の均質な知識伝達から個別最適化された学習への転換を意味しており、教育イノベーションの核心に位置する。

一方で、AIに依存しすぎることへの懸念や、使用に際しての倫理的ガイドラインの整備といった課題も残る。特に、生成AIが誤情報を出力するリスクや、生徒の表現がテンプレート化される懸念は、今後の運用設計において慎重な検討が求められるだろう。
また、教職員のITリテラシー格差による導入効果のばらつきも課題として浮上してくる可能性がある。

マーケティングやビジネスの観点から見ると、今回の都の動きは、国内外のEdTech（※）業界にとって重要なシグナルとなるだろう。自治体単位で生成AIを本格導入する事例はまだ少ないが、今回の件を機に、教育分野でのAIサービスの需要が一気に押し上げられる可能性がある。
今後、他の自治体や私学、さらには企業研修やリスキリング分野への波及も予測され、AIと教育の融合が社会全体に与えるインパクトは計り知れないと考えられる。

※EdTech（エドテック）：Education（教育）とTechnology（技術）を組み合わせた造語。IT技術を活用して教育の効率化や高度化を図るサービスやシステム全般を指す。