TOPPANエッジとPartisia、顔認証と分散IDで「デジタル学生証」開発 OISTで実証へ

2025年5月7日、TOPPANホールディングスのグループ会社のTOPPANエッジとデンマークの暗号技術ソフトウェア企業Partisia Applications ApS(以下、Partisia)が、顔認証と分散型IDを活用した「デジタル学生証」を共同開発することを発表した。2026年4月から本格導入を目指す。
なりすまし防止と運用負荷軽減 顔認証×分散型IDの統合
文部科学省によれば日本国内には813の大学が存在し、在学者は約295万人に達する。そのうち、「FeliCa」対応ICカードの学生証を発行する大学は360校を超える。
しかし、従来の学生証は物理カードの発行や管理にコストがかかるうえ、入学期には大量発行が集中するため、業務負担が特に大きい。さらに、なりすましや不正使用といったリスクも考えられる。
こうした背景から、TOPPANエッジとPartisiaが取り組むのが、スマートフォンを基盤とした「デジタル学生証」の開発である。
顔認証を用いた本人確認に加え、NFC(近距離無線通信)による識別、分散型ID(※1)の採用により、利便性とセキュリティの両立を図っている。
実証実験は沖縄科学技術大学院大学(OIST)にて、2025年6月から9月にかけて実施予定であり、約50人の学生を対象とする。
第一段階では、顔認証による出欠管理の効率化を検証し、続く第二段階では、NFCによる施設アクセスの自動化に取り組む計画である。
システムの基盤には、Partisiaが開発したMPC(※2)とブロックチェーン(※3)技術が用いられており、個人情報の秘匿性を確保しつつ、改ざん耐性やデータの可用性を確実に担保する設計となっている。
信頼性が求められる学内管理の高度化を推進する仕組みとして、教育機関からの注目も高まりそうだ。
2026年導入視野に 教育現場のDXを牽引する「スマホ学生証」の実装可能性
今回のプロジェクトでは、2025年中にデジタル学生証のプラットフォーム提供を開始し、翌2026年4月から新入生への導入を見据えている。
仮に全国的に展開されれば、年間数百万枚に及ぶカード発行の手間とコストを削減できる可能性があるだろう。
また、本人確認を伴う学内サービス、例えば図書館の貸出や証明書発行、学食の決済などとの連携が進めば、利便性は飛躍的に高まると考えられる。
一方で、認証の精度や、情報保護に関する制度設計といった課題も残るだろう。
教育機関がプライバシーに関する説明責任を果たす体制を整備し、学生の理解と合意を得ながら段階的に拡大していく必要があると考えられる。
文部科学省が掲げる「教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)」にも沿ったこの取り組みは、デジタルIDをめぐる国際動向と連動しつつ、日本国内における大学の在り方を大きく変えていく起点となるかもしれない。
※1 分散型ID(DID):中央サーバーを持たず、ブロックチェーンなどを利用して個人が自らの身元情報を管理する技術。プライバシー保護に優れるとされ、Web3領域でも活用が進んでいる。
https://plus-web3.com/media/did/
※2 MPC(マルチパーティ計算):複数の計算主体がデータを共有せずに共同で計算を行う技術。機密性を保ったまま処理ができる。
※3 ブロックチェーン:取引履歴などのデータを、暗号技術を用いて鎖状に連結・分散管理する仕組み。暗号資産やWeb3などの基盤技術として利用されている。
https://plus-web3.com/media/blockchain/