サムスン電子、独空調メーカーを約16.8億ドルで買収 AIデータセンター冷却需要に対応

2025年5月14日、韓国のサムスン電子は、ドイツの空調機器メーカーであるフラクトグループを、投資会社トライトンから約15億ユーロ(約16億8000万ドル)で買収することを発表した。AIデータセンターの冷却需要を見据えた動きであり、同社にとって過去8年間で最大規模のM&Aとなる。
AIデータセンターの冷却競争が激化 サムスンがフラクト買収で先手を打つ理由
AIの進化とともに、世界的にデータセンターの冷却需要が急増している。こうしたなか、サムスン電子は冷却技術に特化したフラクトグループを買収することで、AIインフラ市場における競争力を強化する狙いを明確にした。
フラクトグループは商業用冷暖房システムに強みを持つドイツ企業であり、高効率かつ信頼性の高い冷却ソリューションを展開している。
サムスンはこれまでもAI半導体分野への投資を表明してきたが、同業のSKハイニックスが市場で先行していることから、やや出遅れているとの指摘があった。今回の買収は、そうしたギャップを埋めるための布石とも捉えられる。
AI用チップの処理能力向上に伴い、消費電力と熱の問題はさらに深刻化する見通しで、冷却技術の確保は中長期的に不可欠だと考えられる。
ただし、ロイターの報道によると現代自動車証券のグレッグ・ロー氏は、「今回の買収は市場が期待するようなゲームチェンジャーではない」と指摘しており、短期的には株価へのインパクトは限定的とみられる。
戦略的M&Aは今後の成長布石となるか サムスンのAI分野での巻き返しに注目
今回の買収によって、サムスン電子はAIインフラのサプライチェーン全体における自社のプレゼンスを高めることが可能になると見られる。
AIチップ単体の性能競争から、システム全体の効率性を高める戦略へと舵を切る動きは、業界全体で加速しており、冷却技術の取り込みはその一環といえる。
フラクトグループの買収手続きは年内に完了する見通しであり、今後は同社の冷却技術を自社データセンターの設計や外販製品に組み込むことで、事業ポートフォリオの拡張が期待される。
また、これまでサムスンが進めてきた半導体関連M&Aとは異なり、今回はインフラ視点からの支配力強化を目指した動きであることに注目すべきだ。
一方で、AI市場での遅れを取り戻すためには、さらなる投資や技術提携も不可欠だろう。フラクトの冷却技術は有効な一手ではあるが、それだけで市場全体の主導権を握れるわけではない。SKハイニックスやNVIDIAなど、競合の動向も注視する必要がある。