ロイヤリティ問題を受けてNFTコレクションは独自マケプレに移行するか
sudoswapの登場からコミュニティを賑わせていたロイヤリティ論争は、OpenSeaによるフィルタリングツール『Operator Filter Registry』により落ち着きを取り戻しました。
クリエイターは、当該ツールを自身のNFTコレクションに相当するコントラクトにインポートすることにより、OpenSeaが標準規定したNFTマーケットプレイスでの取引を拒否することが可能になります。しかし、このツールの利用にはあるリスクが伴うことは前回の記事で触れた通りであります。
ツールが持つリスクについて気になる方は以下の記事を参照すると良いと思います。
NFTロイヤリティの規制によるリスクと根本問題
EIP-2981によって、二次流通以降の売上に対するロイヤリティ分配のインターフェースが定義されましたが、依然としてプラットフォームの実装に依存することになっています。このような背景からロイヤリティに関するポジショニング争いが発生し、OpenSeaによるツールの発表までに至るわけです。
今後あらゆるコレクションがOperator Filter Registryを実装し、ロイヤリティを排除したマーケットプレイス上での取引を禁止したとしても、アグリゲーターの存在とNFTマーケットプレイスのフォークプロジェクトの誕生によってイタチごっこになる未来が見えます。
フォークプロジェクトについては、HashHub ResearchでUniswapとそのフォークプロジェクトのSushiSwapについて取り上げた記事が公開されているので、ぜひ参照してみてください。
仮に特定のマーケットプレイスのコントラクトアドレスを、Operator Filter Registryで指定することで取引を禁止したとしても、フォークによって新たなマーケットプレイス(別のコントラクトアドレスを持つ)が誕生することによって、ロイヤリティフリーのマーケットは無限に生まれてきます。
もちろん、フォークしても使われなければ意味はないですし、日々生まれ続けるマーケットをユーザーが追い続けられる訳でもないため、非現実的なシナリオのように思えます。
ですが、アグリゲーターがBotによって新たなフォークプロジェクトを検知し、アグリゲートする仕組みを実装したらどうでしょうか。新たなマーケットプレイスがユーザーに認知されやすくなり、ロイヤリティフリーで取引できるシナリオが現実味を帯びてきます。
結局のところ、Operator Filter Registryが普及しても、問題が少し迂回することになっただけでしかないと筆者は考えます。
ちなみに、アグリゲーターについては以下の記事をぜひご覧ください。
ロイヤリティ問題を受けたNFTコレクションオーナーの今後の動き
このような技術的背景と市場の反応を踏まえ、今後コレクションオーナーはどのように振る舞うことになるでしょうか。
考えられるシナリオは以下の通りになるでしょう。
- ロイヤリティを断念し、1次販売で大きな売り上げを得られるような企画を設計する
- OpenSeaによるOperator Filter Registryを実装し、ロイヤリティを獲得しやすい環境を構築する
- コレクション独自のNFTマーケットプレイスを用意しコミュニティに限定した流通経路を実現する
筆者としては、①か③のアプローチを支持し、②のアプローチは長期的にみて望ましくないケースだと考えています。
【OpenSeaによるOperator Filter Registryを実装し、ロイヤリティを獲得しやすい環境を構築する】
②は、前章で触れた通りいたちごっこの世界に足を踏み入れることを意味します。つまり、コレクションオーナーは新たなロイヤリティフリーのマーケットプレイスを都度レジストリに追加し管理しなければなりません。
OpenSeaがレジストリの管理(デフォルト指定のレジストリ)を担っていますが、忘れたころに自社以外のマーケットプレイスを全てブラックリストに登録するかもしれません。
スマートコントラクトの本質的価値は、あらゆる取引プロセスを人の介在なしに執行できる点にあります。このような前提に立ちかえると、②のアプローチが長期目線で非現実的な選択であると考えられるわけです。
仮に②を選択して、管理できる範囲で維持しようという意思決定をするのであれば、初めからNFTにする必要性が本質的にはないわけです。
【コレクション独自のNFTマーケットプレイスを用意しコミュニティに限定した流通経路を実現する】
③の手法は、コンポーザビリティに価値を持つスマートコントラクトの価値を封印するように思えるかもしれません。しかし、マーケットプレイスのアグリゲータが存在さえすれば、自動的に指定のマーケットプレイスの仲介コントラクトで取引を実行することも可能かと思います。
また、コレクション独自でマーケットプレイスを用意することは、コレクションのブランドを顧客に体験してもらう上でも重要であるため、③の手法も現実的な落ち着きどころとして考えられます。
1点お断りしておくと、現在はEOAと呼ばれる主にユーザーが利用するアカウントとコントラクトアカウントの区別をスマートコントラクト上で判定することができるので、上記で触れた自社マケプレでの取引のみ可能にするという処理を実装できると思います。
しかし、Account Abstractionによるコントラクトウォレットが普及し、コントラクトウォレット中心の世界になった場合は、ユーザー同士のApprove/TransferとマーケットプレイスへのApprove/Transferであるかの判定が難しくなる可能性があります。
【ロイヤリティを断念し、1次販売で大きな売り上げを得られるような企画を設計する】
最後に①のアプローチですが、これが一番現実的ですし、取引経路を管理する意味でのコストもかからず良いのは言わずもがなですね。
NFTロイヤリティ問題解決に向けた独自マケプレへの移行の土壌は出来上がっている
以上のような考えのもとマーケットを眺めると、今後はコミュニティの色が強いコレクションほど(言い換えればロイヤリティ問題で苦心するコレクションほど)独自マーケットプレイスを用意してその取引経路を制限する傾向が強まります。
ここでいくつか独自マーケットプレイスの作成をサポートするプロダクトをご紹介します。
Rarible community marketplace
Raribleはコミュニティ向けのマーケットプレイスを作成できノーコードツールを提供しています。Raribleの狙いは「ブランド主導の顧客体験を実現する」こと「独自マーケットプレイスのスマートコントラクトとウェブサイトを持つことによる耐検閲性・分散性担保」が軸ですが、ロイヤリティについても大きな力を発揮すると考えられます。
Foundation OS
Foundation OSの中核をなすFoundation Protocolは、これまで60万以上の取引を促進し、10万件以上のオンチェーンリストをもつ主要なNFTマーケットプレイスのプロトコルです。本プロトコルは、ノーコードツールが提供されている訳ではなくあくまでSDKとして公開されていますが、ノーコードツールとしては「Artiva」というツールがFoundation OSの一つとして紹介されています。Foundation OSについてはこちら
NFTIFY
NFTifyは、ノーコードでホワイトラベルのNFTマーケットプレイスを作成できるツールです。
このように、独自マケプレへの移行を円滑にするための土壌はすでに揃い始めています。あとは市場でトレンドを作り出すことが必要になるわけですが、11月にApeCoin DAO がコミュニティ向けのマーケットプレイスを開発する方針を発表しました。
本マーケットプレイスは、NFTインフラストラクチャ企業のSnag Solutionsによって開発されます。
【取引可能なコレクション】
- BAYC
- Mutant Ape Yacht Club(MAYC)
- Bored Ape Kennel Club(BAKC)
- Otherdeed for Otherside
など、Yuga Labsが保有するNFTコレクションの取引が可能になります。
Snag SolutionsのZach Heerwagen氏は以下のように述べています。
「Snagは、マーケットプレイスをアンバンドリングすることでクリエイターを支援するために存在します。ApeCoinコミュニティと提携し、手数料を大幅に削減しながらロイヤリティを尊重する製品で現状を置き換えることに興奮しています」
CoinDeskによる【ApeCoin DAO Launches Community-Driven NFT Marketplace】から引用
このように、ApeCoin DAOによって発表された本マーケットプレイスは、コレクションのブランド価値を高めると同時にロイヤリティ問題に対しても独自の対処を行なっています。
AZUKIやCloneX等を含むそのほかのNFTコレクションが、今後どのような取引環境を構築するか、独自マーケットプレイスへの移行は次のトレンドになるのか市場の動きに注目です。
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