NVIDIA、AI推論を身近にする新ライブラリ「TensorRT for RTX」を発表

2025年5月19日、NVIDIAは台湾で開催中の「COMPUTEX TAIPEI 2025」にあわせて、AI推論の処理を大幅に高速化できる新ライブラリ「TensorRT for RTX」を発表した。
本ライブラリはすべてのRTX GPUで動作し、AIの開発と実行の敷居を下げる重要なアップデートとなる。
コード一発、全GPU対応 開発者の負担も大幅軽減へ
NVIDIAが新たに発表した「TensorRT for RTX」は、AI推論の処理速度と互換性を大幅に向上させるライブラリだ。同社の全RTX GPUシリーズに対応し、開発者が個別のGPUごとに対応コードを記述する手間を省けるのが特長である。
従来の「TensorRT」は、推論用エンジンである「TensorRT Engine」を学習済みモデルから生成し、量子化などの最適化手法を通じて実行速度を高める仕組みだった。性能は高いものの、GPUごとにエンジンの互換性がないため、開発者側には大きな負担があった。
これに対しTensorRT for RTXでは、まず全GPUで共通利用できる汎用エンジンを生成し、その後インストール時や初回起動時などに個別GPUへ最適化を施す2段階構成を採用。GPU側の最適化はわずか数秒で完了し、1度の実行で済む。
また、ライブラリのサイズも従来比で8分の1に圧縮。軽量化による導入のしやすさも開発環境全体の柔軟性を高める要素となっている。NVIDIAは本機能を6月中に提供開始する予定で、AIを活用するゲームや業務アプリケーションへの展開が見込まれる。
TensorRT for RTXの発表と同時に、NVIDIAは関連サービスの機能拡張にも言及している。生成AIマイクロサービスである「NVIDIA NIM for RTX」(企業が自社アプリに生成AIを組み込むための実行環境)には、新たに画像生成機能が追加された。
また、ゲーム体験の最適化をAIがサポートする「Project G-Assist」にも注目が集まっている。
RTX対応で広がるAI推論の可能性
TensorRT for RTXの導入により、AIアプリ開発の現場では「対応GPUが限定される」という従来の課題が大きく緩和されると見られる。開発者は1つの推論エンジンを用意するだけで、あらゆるRTX GPUに適応できるため、マルチプラットフォーム対応の負荷が劇的に軽減される。
これにより、ゲームや映像編集などの高負荷アプリにおけるリアルタイムAI処理の普及も進む可能性がある。
一方、デメリットとして懸念されるのは、依然として「RTX GPUありき」の設計思想に縛られている点だ。
たしかにRTXは幅広く普及しているが、それでもAI推論を日常的に行うにはハードウェア要件が一定以上求められることに変わりはない。
「TensorRT for RTX」は、今後数年のAIアプリケーションの開発スピードと多様化を加速させる起点になると見られる。
特に、生成AIやリアルタイム分析といった領域において、エンドユーザーが“結果だけ”を活用できる体験が主流化する中で、裏側の推論処理をいかに軽量かつ高速にするかは重要な競争軸になるだろう。