BASE44完全ガイド【第1回】従来のノーコードと何が違うか

引用:BASE44 公式ページ
AIとノーコードを組み合わせたサービスとして大きな注目を集めているのが、Wixによる「BASE44」というサービスだ。
イスラエルの開発者マオール・シュロモ氏が開発したBASE44は、2024年10月に初版をローンチし、2025年1月に正式に会社として設立された。
創業からわずか6か月で25万人のユーザーを獲得し、初期支払い8000万ドル(約116億円)に加えて2029年までの業績連動型の追加支払いという条件でWixに買収されるという快挙を成し遂げた。買収時、シュロモ氏を含め8人の従業員がおり、彼らには2500万ドルの留保ボーナスが支払われた。
シュロモ氏は31歳で、これが初めてのスタートアップではない。24歳でビッグデータ予測分析企業Exploriumを共同創業し、約1億2500万ドルを調達した実績を持つ連続起業家だ。
関連記事:

全3回となる本連載では、急成長を遂げたBASE44のツールとしての魅力を探る。
第1回となる本記事では、BASE44が持つ「AIプロンプトベース」という特徴を中心に、従来のドラッグ&ドロップ型ノーコードツールとの違いを解説していく。
ノーコードツールの現状
Fortune Business Insightsの最新レポート(2024年)によると、ローコード開発プラットフォームの市場規模は2024年に287億ドルに達し、2025年には374億ドル、さらに2032年には2,644億ドルまで成長すると予測されており(年平均成長率32.2%)、その成長は目覚ましいものがある。
Fortune Business Insightsの最新レポート
BubbleやWebflowといったノーコードツールは、ドラッグ&ドロップによる操作を実現しており、視覚的にシステムを組めることが特徴だ。Bubbleの月額料金は32ドルから、Webflowは14ドルからとなっており、それぞれ異なる強みを持つ。
一方で、ロジック構築に優れるBubbleは、UI・DB・ロジックの概念が一箇所に詰まっているため、習得難易度は高い。
Webサイトの細かいデザインも調整できるWebflowは、週末で基本をマスターできる平易さがある反面、複雑なデータ構造やロジックを扱うには外部サービスとの統合が必要となる。
BASE44の技術的特徴
それらのドラック&ドロップ方式に比べると、BASE44は「アイデア → アプリ」までのスピードをより重視したツールで、「自然言語(プロンプト)+AIによるノーコード/ローコード構築」という組み合わせを実現している。
アイデアをBASE44に伝えるだけで、必要なページ、フロー、機能をすべて備えた本格的なアプリがすぐに完成するという仕組みだ。実測では、プロンプトから基本的なアプリ構造まで5分以内で完成する。

また、データベース管理、認証、メールシステム、分析、ストレージなど、必要なバックエンド機能を一つのシームレスな環境に統合していることで、複雑な設定作業を不要にしている。主要なものだけでも、以下のような機能が統合されている。
- データベース(PostgreSQL)
- ユーザー認証・権限管理
- ホスティング機能
- メール送信機能
- 決済機能(Stripe連携)
- ストレージ
- 分析ダッシュボード
- 外部API連携(Googleスプレッドシート、Airtable、各種REST APIなど)
ユーザーのログイン、データ保存、権限管理など、アプリの動作に必要な仕組みはすべて自動でセットアップされるため、主要な機能を伝えるだけで済む。
特に注目すべきは外部データソースとの連携の容易さだ。
Googleスプレッドシートやその他のAPIと接続し、既存のデータを活用したアプリを簡単に構築することができる(詳細は第2回で実践)。
技術スタックもモダンで、フロントエンドにReact 18、バックエンドにNode.js、データベースにPostgreSQL、AIエンジンとしてGPT-4とClaudeを採用している。
コード記述も可能で、JavaScript/Node.jsで高度なロジックを記述できる。非エンジニアがツールを作るのはもちろん、エンジニアが大まかなシステムをノーコードで組んで、細部をあとで修正することもできる。
価格体系と制限事項
BASE44は「メッセージクレジット」(アプリ開発時のAIとのやり取り)と「インテグレーションクレジット」(アプリ実行時の各種機能利用)という二重クレジットシステムを採用している。無料プランでは月25メッセージと500インテグレーションクレジットが提供され、有料プランはStarterが月額16ドル(年払い、月払いは20ドル)から、最上位のEliteが月額200ドルまで段階的に用意されている。
ただし、注意すべき制限もある。月額100ドルのProプランでもコードエクスポートはフロントエンドのみで、バックエンドはBASE44のSDKに依存したままだ。
完全な自己ホスティングを望む場合、この点は長期的なベンダーロックのリスクとなる。
また、2025年3月から4月にかけて複数のセキュリティ脆弱性が発見され、24時間以内にパッチが適用されたものの、急成長スタートアップ特有の課題も見えている。現在は1万社以上が利用し、そのうち1300社以上が有料顧客となっている。
誰に向いているのか
BASE44は、従来のノーコードツールとは異なる層を主要なターゲットとしている。
非エンジニアの起業家・事業担当者
自然言語を使ってカスタムソフトウェアアプリケーションを構築できる BASE44は、技術的な知識を持たない起業家や事業担当者にとって理想的なツールだ。
プロトタイプを素早く作成し、顧客からのフィードバックを得て、改善していくというリーンスタートアップの手法を実践する上で、BASE44のスピード感は大きなアドバンテージとなる。
従来であれば外部の開発者に依頼する必要があったMVP(Minimum Viable Product)の開発を、自分自身で数日のうちに完成させることができる。
開発コストの面でも魅力的で、BASE44なら月額16ドルから40ドルのプランで、数日でプロトタイピングが可能だ。ただし、コードの完全な所有権がない点は、長期的な事業展開を考える際に考慮すべきだろう。
エンジニア・開発チーム
意外に思えるかもしれないが、開発者、デザインおよびプロダクトチーム、内部ツールを構築する企業(例:Calcali Tech)もBASE44の重要なユーザー層だ。
エンジニアにとってBASE44は、基本的な構造を自動生成し、その後JavaScriptで細かい調整を加えられるため、開発工数を大幅に削減できるツールとなる。
特に社内向けの管理ツールやダッシュボードなど、開発に時間をかけたくないが一定の品質は必要とされるシステムの構築に向いている。
競合するAIコーディングツールとの比較では、Lovableが2ヶ月で2000万ドルのARRを達成し、より洗練されたUI生成で評価されている。Bolt.newは完全なコードエクスポートが可能で月額20ドルから、v0 by Vercelはフロントエンド特化で同じく月額20ドルからとなっており、それぞれ異なる強みを持つ。
BASE44の優位性は、オールインワンのバックエンド機能と外部データ連携の容易さにある。
企業のDX推進担当者
eToroやSimilarWebのようなリーダー企業との実績のあるB2Bパートナーシップ(例:GlobeNewswire)が示すように、BASE44は企業の業務効率化にも活用されている。
部門ごとの小規模な業務システム、データ集計ツール、承認フローシステムなど、IT部門に依頼するほどではないが必要とされる業務アプリケーションを、現場の担当者自身が構築できる点が評価されている。
適した用途
外部データを使用したアプリケーションが得意だ。Googleスプレッドシートやその他のAPIと連携し、既存データを活用したダッシュボードやレポートツールを構築できる。
また、社内業務ツールを素早く制作する用途にも向く。在庫管理や顧客管理用の簡便なシステムを構築することができるだろう。
アイデアの検証段階でのプロトタイプ開発や、小規模なSaaSサービスの立ち上げにも向くだろう。
ただし、複雑なビジネスロジックや高度なカスタマイズが必要なプロジェクトには制約がある。複雑なワークフローやカスタムサインアップフォームの作成は難しく、そうした場合はBubbleのような本格的なローコードプラットフォームの方が適している。
また、SEOを重視するコンテンツサイトであればWebflowの方が優れた選択肢となるだろう。
プロンプト一つで業務ツールは作れるか?次回、検証
BASE44は、「アイデアをすぐにアプリにする」という明確なビジョンのもと、AIプロンプトベースというアプローチでノーコード開発の新しい選択肢を示した。
従来のドラッグ&ドロップ型ツールが「視覚的な操作」を重視したのに対し、BASE44は「自然言語による意図の伝達」を重視することで、開発のスピードと敷居の低さを実現している。
次回の第2回では、実際に検証を行っていく。
BASE44の最大の強みである「外部データソースとの連携」に焦点を当て、Googleスプレッドシートと連動する実用的なツールを実際に構築していく。
具体的には、複数のデータソースからCSVデータを集約し、それをデータベース化してアナリティクス機能を持つダッシュボードを作成する予定だ。
実際のプロンプト入力から、BASE44がどのように応答するか、カスタマイズや調整はどう行うか、そしてデプロイから共有までの一連の流れをお伝えする。
「プロンプトを打つだけで本当に使えるツールができるのか?」という疑問に、実践を通じて答えを出していこう。
関連記事:
TIS、「生成AIプラットフォーム」にAIエージェントやノーコード環境を追加提供

グーグル、AI活用のノーコード開発ツール「Opal」を米国でベータ公開












