2026年5月21日、EYが「EY Europe Attractiveness Survey 2026 」を公表した。欧州では外国直接投資(FDI)全体が前年比7%減少した一方、AIと防衛分野への投資案件は急増した。景気減速や地政学リスクの高まりの中で、欧州の投資構造が「量」から「戦略分野重視」へ転換し始めている。
AI・防衛分野に資金集中 欧州FDIの構造変化鮮明に
EYの調査によると、2025年の欧州におけるAI関連FDI(※)案件は前年比96%増の306件、防衛分野は84%増の107件となった。特にAI分野では1万4000人以上の新規雇用が生まれており、企業の投資対象が次世代技術へ急速にシフトしている実態が浮かび上がる。
一方で、欧州全体のFDI案件数は7%減少した。高インフレやエネルギー価格の上昇、ロシア・ウクライナ情勢を含む地政学的緊張が企業活動を圧迫し、多くの産業分野で投資が縮小したためだ。低炭素エネルギー分野への投資は25%増加したものの、従来型製造業への投資減少を補うには至らなかった。
フランス、英国、ドイツは依然として欧州主要投資先の地位を維持したが、案件数はそれぞれ17%減、14%減、10%減となった。
特にドイツでは生産コスト上昇が企業収益を圧迫しており、国内投資優先の政策も影響し、他国向け投資が28%減少した。
EYのブリジット・ウォルシュ氏は「これは投資の後退ではなくシフトだ」と説明している。
※FDI(外国直接投資):海外企業が現地法人設立や工場建設などを通じ、他国へ長期的に行う投資のこと。単なる株式売買とは異なり、雇用や産業基盤への影響が大きい。
“AI安全保障経済圏”形成へ 欧州競争力回復の鍵になる可能性も
今回の動きは、欧州経済が「低コスト大量生産」から「戦略産業主導型」へ転換し始めた兆候とも考えられる。特にAIと防衛は、国家安全保障と産業競争力の双方に直結する分野であり、各国政府が補助金や規制整備を通じて重点支援を進めている。
背景には、米国と中国によるAI・半導体競争の激化がある。
欧州はこれまでデジタル分野で出遅れが指摘されてきたが、AI人材や研究開発拠点への投資を呼び込むことで、技術主権の確立を狙っている可能性がある。
一方で、防衛産業への投資拡大にはリスクも伴う。地政学不安が長期化すれば、投資マネーが安全保障関連へ過度に集中し、一般産業への資金流入が弱まる懸念があるためだ。また、AI分野でも米巨大テック企業への依存が続けば、欧州独自エコシステムの形成は容易ではない。
それでも、AI・防衛・低炭素エネルギーへの資金集中は、今後の欧州経済を左右する大きな潮流になる可能性が高い公算だ。
企業にとっては、単なる市場規模ではなく「どの戦略領域に資金が集まるのか」を見極める時代に入ったと言える。